主  文

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
 
   事実及び理由

第1 請求
  (甲事件)
 1 被告法務大臣が平成12年11月16日付けで原告妻、原告長男及び原告次男に対してそれぞれ行った出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく同原告らの異議の申出は理由がない旨の裁決をいずれも取り消す。
 2 被告名古屋入国管理局主任審査官が平成12年11月27日付けで原告妻、原告長男及び原告次男に対してそれぞれ行った外国人退去強制令書発付処分をいずれも取り消す。
  (乙事件)
 3 被告名古屋入国管理局主任審査官が平成12年6月22日付けで原告夫に対して行った外国人退去強制令書発付処分が無効であることを確認する。
  (丙事件)
 4 被告法務大臣が平成12年6月19日付けで原告夫に対して行った別表Aの在留資格変更許可及び同BないしGの在留期間更新許可の各取消処分がいずれも無効であることを確認する。
第2 事案の概要
 本件は、短期滞在の在留資格で本邦に入国後、日系3世として定住者の在留資格への変更許可及び在留期間の更新許可を得て日本に滞在していた外国人男性である原告夫並びにその妻子である原告妻、原告長男及び原告次男(以下、同原告3名を併せて「甲事件原告ら」という。)が、原告夫が日系3世ではなく、上記在留資格取得の基礎となった証明書類が偽造文書であったために、いずれも遡って在留資格変更許可、在留期間更新許可及び在留資格取得許可を取り消され、在留期間の経過に伴い退去強制令書の発付を受けたことから、原告長男及び原告次男は、日本での学習権を保障されるべきであり、原告妻もその母親であるから、同原告らに対してはいずれも在留特別許可がなされるべきであったにもかかわらず、被告法務大臣は、裁量権を濫用し、平等原則に違反して、同原告らに対して請求の趣旨1項記載の裁決を行ったものであるから、同裁決は違法であり、被告名古屋入国管理局主任審査官(以下「被告主任審査官」という。)が行った請求の趣旨2項記載の処分も、違法な請求の趣旨1項記載の裁決に基づくものであることから違法であるとして、上記各処分の取消しを求める(甲事件)とともに、被告法務大臣が原告夫に対してした請求の趣旨4項記載の処分は、取消理由が明らかに誤っている等の理由から無効であり、被告主任審査官が行った請求の趣旨3項記載の処分も、無効な上記処分に基づくものであること及び原告夫の錯誤による口頭審理放棄の申出を前提とするもので手続的にも違法があることなどから無効であるとして、これら処分の無効確認を求めた(乙、丙事件)抗告訴訟である。
 1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定可能な事実)
  (1) 当事者
 原告ら4名は、いずれもペルー共和国(以下「ペルー」という。)の国籍を有する外国人である。原告夫と原告妻は婚姻しており、原告長男及び同次男はいずれも両名の間の子であるが、原告次男は日本において出生した。原告らの出生年月日は、別表記載のとおりである。
  (2) 出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)所定の在留資格について
 法は、外国人がわが国で在留中に従事する活動又は在留中の活動の基礎となる身分若しくは地位に着目して27種類の在留資格を定めており、これらに該当する場合に限って外国人の入国及び在留を認めることとしている。
 法は、別表第二で「法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者」を「定住者」と規定しているが、この在留資格については、上陸の申請をした外国人が、被告法務大臣があらかじめ告示をもって定める地位を有する者としての活動を行おうとする者に該当する場合でない限り、入国審査官は上陸許可の証印を行うことができないこととされている(法7条1項2号、9条1項)。この規定を受けて、「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の規定に基づく同法別表第二の定住者の項の下欄に掲げる地位」を定める件(平成2年法務省告示第132号、以下「告示」という。)が定められており、告示は、「法第7条第1項第2号の規定に基づき、同法別表第二の定住者の項の下欄に掲げる地位であらかじめ定めるものは、次のとおりとする。」として、3号で日本人の子として出生した者の実子に係るもの(いわゆる日系3世)、5号で1年以上の在留期間を指定されている定住者の在留資格をもって在留する者の配偶者に係るもの、6号は1年以上の在留期間を指定されている定住者の在留資格をもって在留する者又はその配偶者で日本人の配偶者等若しくは永住者の配偶者等の在留資格をもって在留するものの扶養を受けて生活するこれらの者の未成年で未婚の実子に係るものを定住者の項の下欄に掲げる地位として規定しているが、日本人の子として出生した者の養子及びその妻子に同様の地位を与える旨の規定はない(乙36)。
 法は別表第二で、日本人の配偶者若しくは民法第817条の2の規定による特別養子又は日本人の子として出生した者に、「日本人の配偶者等」の在留資格を与えている。
  (3) 本件の経緯等
   ア 原告夫、原告妻及び原告長男の日本への入国の経緯及び同原告らの在留資格の変更、在留期間更新及びその取消し等の状況、原告次男の在留資格の取得及びその取消し等の状況並びに請求の趣旨記載の各処分に至る経緯は、いずれも別表記載のとおりである。
   イ 原告夫は、別表A′の在留資格変更許可申請及び同B′ないしG′の在留期間更新許可申請において、いずれも、原告夫が、日本人の実子でいわゆる日系2世であるヤシムラ・モンテネグロ・エドアルド(以下「エドアルド」という。)の実子であることを証する内容の証明書類(原告夫の出生証明書(乙37)、原告夫の実母とエドアルドの婚姻証明書(乙48の2)及び原告夫の祖父母の婚姻証明書(乙48の3)。以下、これらを併せて「本件証明書」という。)を提出しているが、本件証明書はいずれも偽造ないし変造されたものであり、原告夫はエドアルドの実子ではなく、実母と他の男性の間に出生し、平成2年12月12日にエドアルドと養子縁組した者にすぎず、いわゆる日系3世には該当しない(甲21、22、乙15、38、48の1)。
   ウ 被告法務大臣は、平成12年6月19日、原告夫に対する別表Aの在留資格変更許可及び同BないしGの在留期間更新許可を取り消したが(以下「本件取消処分」という。)、その通知書には「日本人の配偶者等の在留資格に該当しないため」と記載されていた(甲1の1、以下「本件通知書」という。)。なお、被告法務大臣は、上記通知書の理由欄の記載が誤記であったとして、平成13年1月4日、改めて理由欄を「定住者の在留資格に該当しないため」とした通知書(乙4)を原告夫に差替分として交付している。
   エ 被告法務大臣は、平成12年6月19日、本件取消処分を受けて、別表A′ないしG′の申請を改めていずれも不許可とする決定をし、原告夫に通知したが、その通知書には「次の理由から在留資格の変更(在留期間の更新)を適当と認めるに足りる相当の理由があるとは認められません。提出された資料の信ぴょう性に疑義が認められ、定住者の在留資格に該当する活動を行うことに係る立証としては十分ではありません。」と記載されている(甲2の1)。
   オ 原告夫は、名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)入国警備官による違反調査を経て、同年6月22日、同入管入国審査官から法24条4号ロに該当するとの認定を受け、同日、同認定に服し口頭審理の請求を放棄する旨の書面(乙16、以下「口頭審理放棄書」という。)に署名、指印した(以下「口頭審理放棄」という。)。
   カ 甲事件原告らは、同年6月19日、被告法務大臣から、別表記載のとおり、同表a及びアの在留資格変更許可、bないしf及びイないしオの在留期間更新許可、在留資格取得許可をそれぞれ取り消され、これらに係る申請を改めて不許可とされた上、名古屋入管入国警備官による違反調査を経て、同年7月31日、同入管入国審査官から、原告妻及び原告長男については法24条4号ロに、原告次男については同条7号にそれぞれ該当するとの認定を受けた。同原告らは、同日、これに対して法48条1項の口頭審理の請求をしたが、名古屋入管特別審理官は、同年9月6日、同入管入国審査官の上記認定には誤りがない旨の判定通知をなした。同原告らは、同日、被告法務大臣に対して法49条1項に基づく異議の申出をしたが、被告法務大臣は、同年11月16日、同原告らに対し、異議の申出には理由がない旨の裁決をそれぞれ行った(乙32、以下「本件裁決」という。)。
   キ 被告主任審査官は、原告夫が前記オのとおり口頭審理放葉書に署名したことを受けて、同年6月22日、原告夫に対して退去強制令書を発付した(乙17、以下「第1次退令発付処分」という。)。また、同被告は、本件裁決を受けて、同年11月27日、甲事件原告らに対し、退去強制令書をそれぞれ発付した(乙33の1ないし3、以下、これらを併せて「第2次退令発付処分」という。)。
   ク 原告夫は、同年6月19日、被告主任審査官の発付した収容令書により名古屋入管収容場に身柄を収容され、第1次退令発付処分後は肩書収容場所に収容されて、現在まで収容を継続されている(乙13、17)。
 甲事件原告らは、同年7月25日にいったん収容令書の執行を受けたが、同日仮放免の許可を受け、第2次退令発付処分についても仮放免許可を受けて、肩書住所地の自宅において生活している(乙23の1ないし3、25の1ないし3、33の1ないし3、34の1ないし3)。
   ケ 原告長男は、入国当時4歳であり、日本の保育園に2年、小学校に6年間通学し、現在中学1年生として西尾市立鶴城中学校に通学中である。原告次男は、現在西野町保育園に通園中である(甲26、29、31、乙41の1ないし3、42、43)。
 2 争点
  (1) 本件取消処分は取消理由を誤り、かつ遡及的に取り消したことにより無効な処分か(丙事件請求関係)。
  (2) 第1次退令発付処分は違法、無効な本件取消処分の瑕疵を承継し、又は手続的違法により無効であるといえるか(乙事件請求関係)。
  (3) 甲事件原告らに対し在留特別許可を与えなかった本件裁決は裁量権を濫用し、又は平等原則に反する違法な処分か(甲事件請求関係)。
  (4) 第2次退令発付処分は本件裁決の違法性を承継した違法な処分か(甲事件請求関係)。
 3 争点に関する当事者の主張
  (1) 争点(1) (本件取消処分の無効)について
  (原告夫の主張)
   ア 原告夫は、日系2世であるエドアルドと養子縁組しており、「定住者」の在留資格を与える告示所定の要件は充足しないものの、それに準ずる地位にあった。ところで、「日本人の配偶者等」と「定住者」は全く異なる在留資格であり、原告夫が変更許可及び更新許可によって認められていた在留資格は「定住者」である。本件取消処分について、被告法務大臣は、「定住者の在留資格に該当しないため」と記載する意図で、誤って本件通知書に「日本人の配偶者等の在留資格に該当しないため」と記載したものであると主張するが、行政行為について、表示行為と内部的意思決定に不一致が生じた場合、表示行為が正当な権限のある者によってなされた以上、当該表示行為において表示されたとおりの行政行為があったと認めるべきであるとするのが判例である(最高裁第三小法廷昭和29年9月28日判決、民集8巻9号1779頁)。
 本件通知書は、被告法務大臣によって作成されたものであり、同被告に表示行為の権限があることは明らかである。したがって、本件取消処分は、処分理由を誤った無効な処分というべきである。
 被告法務大臣は、平成12年12月21日に、本件通知書の理由欄の記載が誤記であること及び正しい処分理由を原告夫に対して口頭で告知し、さらに、平成13年1月4日、正しい処分理由を記載した通知書を原告夫に交付したと主張するが、これらの行為は単に事後的に外形を整えたにすぎず、異議申立等の手続的保障も伴わないから、本件取消処分の効力に影響を及ぼすものではない。
   イ また、遡及的に取消処分を行うことは、処分を受ける者に与える不利益が著しいから許されず、無効である。
  (被告法務大臣の主張)
   ア 法別表第二を受けた告示は、直接的には上陸申請の場合の原則的な許否の要件を定めているものであるが、在留資格の変更許可申請ないし在留期間更新許可申請の許否との整合を図る必要があるから、前者の内容、趣旨は後者においても十分尊重されるべきところ、原告夫が告示3号の日系3世に該当しないことは当事者間に争いがなく、したがって、甲事件原告らがそれぞれ告示5、6号に該当しないことは明らかである。
 そうすると、原告ら4名の在留資格変更許可、在留期間更新許可及び在留資格取得許可はすべて不許可とされるべきであり、既に許可されたものについては取り消されるべきものである。
   イ ところで、本件通知書には、理由欄に「定住者の在留資格に該当しないため」と記載すべきところ、誤って「日本人の配偶者等に該当しないため」と記載されている。
 しかしながら、行政処分が無効となるためには、当該処分に重大かつ明白な瑕疵が存在しなければならず、その瑕疵が明白であるか否かは、処分の外形上、客観的に瑕疵が一見して看取し得るか否かにより決せられるべきであり、行政処分は、それが当該国家機関の権限に属する処分としての外観的形式を有する限り、仮にその処分について違法の点があったとしても、その違法が重大かつ明白である場合、すなわち、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大かつ明白な誤認があると認められる場合のほかは、これを法律上当然無効とすべきではない(最高裁第三小法廷昭和30年12月26日判決・民集9巻14号2070頁、最高裁大法廷昭和31年7月18日判決・民集10巻7号890頁、最高裁第三小法廷昭和34年9月22日判決・民集13巻11号1426頁)。
 なお、行政庁の意思と行政処分の表示が一致しない場合、確かに、原告夫の主張するように、表示されたところに従って行政処分の効力が生ずべきであるが、意思と表示の不一致が明白である限りは、行政処分の相手方やその他の利害関係人の表示されたところについての信頼を保護する必要はないから、かかる単純な誤記については、行政庁の真意に従って当該行政処分の内容を解釈すべきである。
   ウ 本件通知書には、取消しの対象となる処分(別表AないしG)が、日付、名称及び許可番号によって具体的に特定して記載されている上、本件取消処分の際、担当者は、本件通知書を交付するだけではなく、原告夫に対し、取消しの理由は原告夫が日系3世に該当しないためであることを口頭で説明している。また、本件取消処分と同一の機会になされた別表A′ないしG′の申請に対する不許可の通知書には、その理由として、前記前提事実のとおり、定住者の在留資格に該当する活動を行うことに係る立証としては不十分である旨の記載がなされており、これと併せて見れば、本件通知書の理由欄の記載が誤記であり、真の処分理由が、原告夫が「定住者」の在留資格に該当しないためであることは明白である。さらに、原告夫自身も、本件取消処分直後の違反調査において、本件取消処分について、自分は「定住者」の資格を有していたがそれを遡って取り消された旨供述しているのであるから、本件取消処分当時、原告夫は、被告法務大臣の真意である処分理由(「定住者」の在留資格に該当しないため)を知っていたというべきである。さらに、被告法務大臣は、平成12年12月21日、念のために本件通知書の理由欄は誤記であって、正しい処分理由は「定住者の在留資格に該当しないため」であることを原告夫に告知し、平成13年1月4日には正しい処分理由を記載した処分取消通知書を交付しているから、外形上も誤記が是正されたものとして、本件については被告法務大臣の真意に従って本件取消処分の内容が解釈されるべきである。そうすると、原告夫が日系3世ではなく、告示の定める定住者の資格を有しないことは明らかであるから、被告法務大臣の認定に誤認はなく、本件取消処分は有効である。
  (2) 争点(2) (第1次退令発付処分の無効)について
  (原告夫の主張)
   ア 争点(1) で主張したとおり、本件取消処分が無効である以上、原告夫は、第1次退令発付処分当時、適法な在留資格を有していたことになるから、同処分は当然に違法、無効である。
   イ 原告夫の口頭審理放棄は、同原告が、帰国するほかないとの説明を受けたのみで、在留特別許可の制度が存在することを教えられず、原告妻等が日本に在留したいという意向を有していることを知る機会も与えられなかったことにより、ペルーに帰るほかないと誤信してなしたものであり、錯誤無効であるほか、適正手続に反した点で違法、無効であり、効力を有しない。そして、原告夫は、口頭審理放棄の直後である平成12年6月23日に原告妻と面会した結果、その意向を知り、直ちに係官に対してAPPEALと題する書面を提出し、口頭審理の請求をする旨申し出、さらに同月27日、在留特別許可の申請も行っている。したがって、原告夫は名古屋入管入国審査官の認定に対して適法な口頭審理の請求をしている状態にあり、退令発付の要件を欠くから、第1次退令発付処分は無効である。
   ウ 仮にそうでないとしても、第1次退令発付処分は、法47条3項の口頭審理の請求ができる旨の説明を欠いた状況下でなされたもので、違法、無効である。
  (被告主任審査官の主張)
   ア 争点(1) で主張したとおり、本件取消処分は有効であり、原告夫の主張は前提を欠く。
   イ 原告夫は、同原告が法24条4号ロに該当する旨の名古屋入管入国審査官の認定に服し、口頭審理請求放棄書に署名しているところ、これによって原告夫の口頭審理請求権は消滅し、後に口頭審理請求放棄の撤回をすることは許されない。法は、退去強制手続において容疑者が法24条各号の1に該当するとの入国審査官の認定に服した場合、被告主任審査官に対し、全く裁量の余地なく、退去強制令書を発付しなければならない旨を定めている(47条4項)のであるから、原告夫に対する第1次退令発付処分は適法である。
 なお、原告夫は、平成12年6月23日に、口頭審理の請求をしたい旨の被収容者申出書(APPLICATION FORM、乙46)を提出しているが、これは口頭審理放棄後になされたもので、法的意味を有しない。
   ウ 原告夫の口頭審理放棄に先立ち、名古屋入管入国審査官は、同原告が法24条4号ロに該当すること及び同原告が認定に服しない場合には3日以内に口頭審理の請求をすることができる旨を告げた上で、認定に服するか否かを尋ねたところ、原告夫は、認定に服し口頭審理の請求はしないと述べ、その旨の供述調書を読み聞かせられた上で署名指印しており(乙15)、さらに、認定に不服がある場合には3日以内に口頭審理の請求ができる旨の記載のあるスペイン語による訳文付きの認定通知書及び口頭審理放棄書の用紙を受領しているから、法47条3項の手続は適法に履践されている。
  (3) 争点(3) (本件裁決の瑕疵)について
  (甲事件原告らの主張)
   ア 学習権について
   (ア) 憲法26条は、国民各自が1個人として成長、発達し、自己の人格を完成し、実現するために必要な学習をする固有の権利を有することを前提としており、特に、自ら学習することができない子どもは、大人一般に対して、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを要求する権利を有するというべきである。この学習権が基本的人権の一つであることについては、昭和60年3月19日の第4回ユネスコ国際成人教育会議でも、その正当性を普遍的に認められているとされている。
 そして、こうした学習権は、教育基本法前文の趣旨並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)24条1項及び児童の権利に関する条約(以下「児童の権利条約」という。)2条が在留資格と無関係に教育の普及徹底や児童の保護を規定していることに照らせば、日本国籍を有する者ばかりではなく、日本に在留する外国人にも等しく保障されるというべきである。
   (イ) 児童の権利条約3条1項は、児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする旨の規定であり、被告法務大臣の在留特別許可に関する裁量権は、この最善の利益に対する考慮によって制約されると解すべきであって、日本国内での教育を開始した者、少なくとも一定期間教育を継続した者について、在留特別許可を与えなければ教育の継続が困難となることが予想される事情がある場合に、在留特別許可をせずになされた行政処分は違法というべきである。
 なお、同条約9条4項は、父母の一方若しくは双方の退去強制により父母と児童が分離されることがある旨の規定であるが、この規定は、児童の最善の利益として児童の在留を認めるとしても、当然には父母の在留を認めないことがあるということを規定するものにすぎず、児童の最善の利益が在留資格の枠内で保障されるにすぎないということの根拠とするのは相当ではない。
   (ウ) 一般に、母国語習得後と考えられる小学校高学年以降の外国人児童が来日した場合、数か月から1、2年でおおよその意思の疎通が可能となるが、実際の学習場面で使われる学習言語力の習得には5ないし7年位を要し、しかも年齢が高くなればなるほどその習得は困難になるといわれているところ、原告長男は、前記前提事実のとおり、4歳時から日本において長期間教育を受けてきており、ペルーで使用されている言語であるスペイン語をほとんど解さないため、ペルーに帰国した場合、初等教育から再度履修し直さなければならず、教育を受けることが困難となる。原告次男も、日本で出生した日本人の子弟と同様に日本語のみを使用して生活しており、フランスやアメリカのように出生地主義の下では日本国籍を当然に取得しているはずであって、このような状況は十分に考慮されるべきである。また、原告長男及び原告次男に十分な教育を受けさせるためには、その養育の責務を負っている原告妻に対しても在留が認められる必要がある。特に、昨今はフジモリ大統領が罷免されるなどペルー情勢は極めて混乱しており、原告ら家族がペルーに帰国しても生活できるあてはない。そして、甲事件原告らは、善良な市民として地域社会に溶け込んだ生活を送っていたのであるから、在留特別許可を認めることにより、わが国の国益は何ら損なわれない。本件証明書の改ざんも、国内における労働力不足を補うために日系人の在留を必要とする状況において介在し始めたブローカーがなしたものであり、入管行政による十分なチェック機能が働いていれば、本件のような問題は発生しなかったというべきである。
 これらの事情にもかかわらず、甲事件原告らに在留特別許可を認めなかった本件裁決は、児童の権利条約3条に反し、裁量権の範囲を逸脱した違法なものである。
   イ 平等原則について
 近時、イラン国籍の5家族(20人)に対して在留特別許可がなされた事実が存するところ、これらの家族には、いずれも中学校の年齢に達した児童(12歳ないし16歳)が存し、このことが在留特別許可を付与した一つの重要な基準になっていると考えられる。原告長男は中学校に通学中であり、上記5家族の事例と異なる点はないのであって、甲事件原告ら、ことに原告長男に対して在留特別許可を与えなかった本件裁決は、憲法14条の平等原則に反し、裁量権の濫用に該当して違法である。
  (被告法務大臣の主張)
   ア 憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、在留の権利ないし引き続きわが国に在留することを要求する権利を保障されているものでもない(最高裁大法廷昭和53年10月4日判決・民集32巻7号1223頁)。そして、法50条1項の在留特別許可は恩恵的な性質を有し、これを与えるか否かは、同項の規定の仕方に照らしても、被告法務大臣の広範な自由裁量に委ねられ、その反面、裁判所の審査権の範囲は限定されているというべきであって、その裁量権の行使に当たり、判断の基礎とした重要な事実に誤認があること等により判断が全く事実の基礎を欠いたり、事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により上記判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかである場合でない限り、違法とはならないと解すべきである。
 したがって、外国人に対する憲法上の基本的人権の保障は、外国人の在留制度の枠内で与えられているにすぎず、児童の権利条約も、9条4項において、父母の一方若しくは双方又は児童の退去強制の措置に基づき、父母と児童が分離されることがあることを予定しているから、同条約3条の最善の利益は、在留制度の枠内で保障されるにすぎない。
   イ 甲事件原告らは、前記前提事実のとおり、在留資格変更許可、在留期間更新許可及び在留資格取得許可をそれぞれ取り消され、在留期間を超えてわが国に不法に残留していたのであり、原告妻及び原告長男については法24条4号ロ、原告次男については法24条7号の退去強制事由が存する。
 そして、以下の事情に照らせば、同原告らについて在留特別許可を付与しないこととした本件裁決に裁量権の濫用がないことは明らかである。
   (ア) 原告夫は、甲事件原告らが被告法務大臣に対して異議の申出をする約2か月半前の平成12年6月22日に、退去強制事由が存する旨の名古屋入管入国審査官の認定に服し、口頭審理の請求を放棄しており、同原告に対しては同日付けで第1次退令発付処分がなされている。
 したがって、同原告についてはペルーに送還されることが既に決定しているのであり、原告ら4人が共に生活しようとすれば、ペルーに帰国するほかない。
   (イ) 原告夫、原告妻及び原告長男は、ペルーで出生、生育し、原告夫の養父が日系人であること以外にわが国との関わりを持たない者であり、原告夫が稼働目的でわが国に入国した後、その他の原告らを呼び寄せたにすぎない。また、原告夫は来日前にIDAD大学2年を卒業後、平成2年までビジネス会社で稼働していたのであって、その養父エドアルドも弁護士でペルーのチャンゴヤペ市の市長を3期も務めた経験を有し、平成10年までトリビージョ(トルビー)大学で政治学の教鞭をとっていた人物であるから、原告らが帰国後、ペルーでの生活に支障を来すことはない。
   (ウ) 原告長男及び原告次男はペルー国籍を有するのであり、今後ペルーにおいて教育を受けて生活していくことが可能である。同原告らはいまだ可塑性に富む年代にあり、帰国当初は言語や生活習慣の面で困難を感じることがあったとしても、両親とともに帰国して他の親族の在住するペルーでの生活に慣れ親しむことは十分に可能である。むしろ、両親とは別に扱わないことによって、家族を分離させる結果を招かないことこそ、前記最善の利益に沿うというべきである。
   (エ) 原告らは、原告夫が日系3世ではないにもかかわらず、偽造ないし変造した本件証明書を提出して在留資格変更許可、在留期間更新許可及び在留資格取得許可を得ており、特に、原告夫及び原告妻は、別表D′ないしG′、d′ないしg′、ウ′ないしカ′の各申請及び原告次男の在留資格取得申請をした当時、本件証明書が偽造ないし変造されたものであること及び自らがこのような文書を提出して虚偽の申請をすることを認識していたものである。わが国で稼働する目的で、不正な文書を提出して在留資格を得ようとする者が後を絶たず、経済活動、労働市場、保険、衛生、治安等の各方面について様々な問題を惹起しており、多数の外国人が不法就労活動を行うことにより、国内労働者の労働条件の向上の障害となり、低賃金労働市場の固定化による労働市場の階層化等の問題が生じている現在、原告らのように出入国管理秩序を無視した悪質な行為に及んだ者に対し、上記のような国益を保持すべき責務を負った被告法務大臣が、人道上の配慮から例外的に認められる在留特別許可を与えるべき理由はない。
   ウ 平成9年から平成11年までの間に在留特別許可が認められた件数は8246件、理由なしとされた件数は482件であるが、在留特別許可に関する被告法務大臣の裁量権に基づく判断は個別に各事案ごとに行われるものであって、類型的処理になじまないから、平等原則違反の問題は生じない。
  (4) 争点(4) (第2次退令発付処分の違法)について
  (甲事件原告らの主張)
 争点(3) で主張したとおり、本件裁決は違法であるから、本件裁決に基づいてなされた第2次退令発付処分もいずれも違法である。
  (被告主任審査官の主張)
 法は、被告主任審査官に対し、退去強制手続において、被告法務大臣から異議の申出は理由がない旨の裁決の通知を受けた場合、全く裁量の余地なく退去強制令書を発付しなければならない旨を定めている(49条5項)。そして、争点(3) で主張したとおり、本件裁決には違法事由がないから、甲事件原告らに対する第2次退令発付処分は適法である。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1) (本件取消処分の無効)について
  (1)ア 一般に、行政法規が一定の行政処分に理由付記を要求する趣旨は、行政庁の判断の慎重さ、合理性を担保するとともに、相手方に不服申立ての便宜を与えることにあると解される。したがって、厳格には理由付記を満たしたとはいえなくとも、上記のような趣旨を考慮する必要のない特段の事情が存する場合、例えば関係者が誤記であることを容易に認識できる一見して明白な誤記である場合には、そのことによって当該処分の違法をもたらすものではないと解するのが相当である。
   イ そこで本件について検討するに、証拠(乙12、40、原告夫本人)によれば、原告夫は、平成12年6月19日に本件取消処分を受けた当時、自己の提出した本件証明書が偽造ないし変造された文書であり、真実の証明書を提出すれば在留許可は得られない状況にあることを認識しており、かつ、名古屋入管入国審査官から、取消処分の原因は本件証明書が偽造されたものである旨聞かされて理解していたこと、当時、同原告は、上記取消しに係る自己の在留資格が「定住者」であることを認識していたことが認められる。実際にも、原告夫が本件通知書の処分理由欄の記載内容を信頼してそれを前提とする何らかの行動に出たという事実はないから、同原告は本件通知書の処分理由欄に誤記があったことによって何らの不利益を受けていないと認められる。
 そして、本件通知書の処分理由欄には、原告夫の在留資格とは全く関係のない記載がなされているけれども、取消処分の対象は在留資格変更許可及び在留期間更新許可として具体的に特定されており、その取消理由が当該許可に係る在留資格の基礎となる事情に関わるものであることは、関係者であれば何人にも容易に理解可能である。
 そうすると、本件取消処分については、処分庁である被告法務大臣の真意と被処分者である原告夫の認識が一致しているから、本件通知書の処分理由欄の記載は一見明白な誤記にすぎず、違法をもたらすものではないというべきである。
   ウ なお、行政処分が無効となるのは、当該処分に明白かつ重大な瑕疵がある場合に限られるというべきところ、上記のとおり、本件通知書の処分理由が誤っていた点は、本件取消処分の違法をもたらすものとは解されず、ましてや処分を無効ならしめるものということはできず、この点に関する原告夫の主張には理由がない。
  (2) 次に、原告夫は、遡及的に取消処分を行うことは被処分者に与える不利益が著しいから許されない旨主張するので、この点について判断する。
   ア 一般に、処分の職権取消しとは、行政処分に瑕疵ある場合、行政庁が自発的にその効力を失わしめることを指すが、違法な状態を是正するものであるから、法律による行政の原理に照らすと、明文の規定がなくとも原則としてこれを行うことが許され、かつその効果は遡及すると解される。もっとも、相手方に一定の利益を与えるいわゆる受益的行政処分については、その取消しにより関係者の利益を著しく害する場合など、条理上、行政庁による取消権の行使が制限される場合があるというべきであるが、この場合においても、違法な処分を放置することによる公益上の不利益が、処分の取消しにより関係人に及ぼす不利益に比べてはるかに重大であると認められる場合には、これを取り消すことについて公益上の必要があると認められるので、当該取消処分は適法であると解するのが相当である(最高裁第二小法廷昭和31年3月2日判決、民集10巻3号147頁参照)。
   イ これを本件についてみるに、原告夫に対する別表AないしGの在留資格変更許可及び在留期間更新許可は、原告夫が法及び告示の定める「定住者」の資格を取得すべき実体上の身分関係を有しないにもかかわらず、偽造ないし変造された本件証明書を提出することにより、被告法務大臣を欺罔して取得したものであり、同原告のこのような行為はわが国の出入国管理秩序を乱す不法なものであるといわざるを得ない。かかる不法な手段で在留資格変更許可及び在留期間更新許可の申請をした者が取消処分により在留資格を喪失するという不利益を被ることはむしろ当然というべきであり、このような違法な許可を放置することは国の出入国管理秩序の維持という観点からすると到底許されないというべきである。
 したがって、本件取消処分に何ら違法はなく、この点に関する原告夫の主張も採用できない。
  (3) 以上のとおり、本件取消処分が無効であるとは認め難い。
 2 争点(2) (第1次退令発付処分の無効)について
  (1) まず、本件取消処分が無効といえないことは前記1で判断したとおりであるから、これを前提とする原告夫の主張には理由がない。
  (2) 次に、原告夫は、口頭審理放棄が錯誤により無効であり、又は適正手続違背により効力を生じない等と主張するので、この点について判断する。
   ア 証拠(乙12、15、16、19、20、40、45ないし47、原告夫本人)によれば、原告夫は、平成12年6月19ないし22日当時、日常生活で使用する程度の日本語を理解する能力はあり、平仮名と片仮名も読むことができたこと、原告夫は、同月19日の名古屋入管入国警備官による調査の際、なぜ本件取消処分を受けたかは理解している、こうなった以上帰国するしかないことは承知しているので家族4人で帰国できるようお願いすると述べており、同月22日の名古屋入管入国審査官による審査の際には、うその書類を使ってビザをもらっていたのは悪いことなのでもうペルーに帰りたいと思う旨述べた上、(退去強制事由の)認定に服し口頭審理の請求はしないと供述しており、これらの供述調書についてはそれぞれ読み聞かせられた上で署名指印していること、原告夫は、同月22日の名古屋入管入国審査官の審査終了後、同審査官から法24条4号ロに該当する旨の認定通知書を交付されたが、同通知書には「上記の認定に不服があるときは、この通知を受けた日から3日以内に、特別審理官に対し、口頭審理の請求ができます。」と記載され、スペイン語による訳文が併記されていたこと、同入管入国審査官は、原告夫に上記認定通知書を交付した後、認定に伴う法律上の効果を説明するとともに、認定に服しないときは3日以内に口頭審理の請求ができる旨告げたが、原告夫は「もういい。ペルーに帰る。」と述べて、スペイン語と日本語により、「入国審査官の退去強制事由に該当する旨の認定に服し、口頭審理の請求を放棄する」旨の文章が併記された口頭審理放棄書に署名指印したこと、原告妻は、同月19日の名古屋入管入国警備官による調査の際には、家族と共に早くペルーに帰りたい旨述べていたこと、原告夫が口頭審理の請求をしたい旨の記載のある被収容者申出書(APPLICATION FORM)を提出したのは同月23日であり、同月22日の第1次退令発付処分前に原告夫からこのような申し出がなされた事実はないこと、以上の事実が認められる。
   イ 一般に、公法上の意思表示についても、その性質に反しない限り、私法上のそれに関する法理が類推適用されるべきものであるが、前者においては取引の安全の確保の要請が後退する反面、公法秩序の早期安定の要請が強く働くので、意思表示の欠缺、瑕疵に関する法理をそのまま持ち込むことは相当でない。例えば、表意者に錯誤が存したからといって直ちに無効をもたらすものではなく、その錯誤の内容の重大性と効力を否定した場合の公法秩序の動揺を比較衡量し、効力を維持することが正義に反すると考えられる場合に限って無効と解するのが相当である。
 しかるところ、原告夫は、口頭審理放棄当時、妻が在留希望を有することや在留特別許可の制度が存することを知らなかったので、口頭審理放棄は錯誤により無効であると主張するが、同主張は、口頭審理放棄の意味、効果を誤信したものではなく、動機の錯誤に関するものにすぎないのに対し、これを受けて被告主任審査官が第1次退令発付処分を行い、これが執行されるなど、次の行政手続が形成されているから、その効力を否定するのは相当でないといわざるを得ない。
   ウ また、法は、退去強制手続において、不法在留の容疑者に対し在留特別許可制度について通知ないし教示を行うべきことを定めておらず、50条1項に照らしても、同制度は恩恵的手続として設けられたものであることが明らかであるから、在留特別許可につき教示しなかったことが手続的な違法原因に該当するとの原告夫の主張は理由がない。
 そして、法47条4項は、不法在留の容疑者が法24条所定の退去事由がある旨の入国審査官の認定に服した場合には、被告主任審査官は、当該容疑者に対して口頭審理の請求をしない旨の文書に署名させた上で、すみやかに退去強制令書を発付しなければならないと定めており、前記認定のとおり、原告夫は、同月22日、自己の意思により名古屋入管入国審査官の認定に服する旨の意思表示をしたのであるから、被告主任審査官が、同日、原告夫に口頭審理放棄書に署名指印させた上、第1次退令発付処分を行ったことは、法に基づく当然の手続というべきであって、何らの違法はない。原告夫は、被収容者申出書を提出したことにより適法に口頭審理の請求をしたから、第1次退令発付処分は無効であると主張するが、前記認定のとおり、同原告が口頭審理の請求をしたいと申し出たのは第1次退令発付処分の後であるから、そのような口頭審理の請求は法的意味を有しないというべきであり、原告夫の主張は採用できない。
  (3) 以上のとおり、第1次退令発付処分に無効原因があるとは認め難い。
 3 争点(3) (本件裁決の違法性)について
  (1) 外国人は、憲法上、わが国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、在留の権利ないし引き続きわが国に在留することを要求する権利を保障されているものではない(前掲最高裁大法廷昭和53年10月4日判決)。また、法50条1項の在留特別許可は、被告法務大臣の広範な自由裁量に委ねられており(最高裁第三小法廷昭和34年11月10日判決・民集13巻12号1493頁)、その判断の基礎とした重要な事実に誤認があること等により判断が全く事実の基礎を欠いたり、事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により上記判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかである場合でない限り、その裁量権の行使が違法となることはないと解するのが相当である。
 この点について、甲事件原告らは、児童の権利条約が被告法務大臣の裁量権を制約する旨主張するところ、確かに上記裁量権の行使に当たって児童の人権が十分に考慮されなければならないことはいうまでもないが、同原告らが上記主張のよりどころとする児童の権利条約は、9条4項において、父母の一方若しくは双方、又は児童自身が退去強制の対象となる場合があることを前提とした規定であるから、同条約3条にいう最善の利益が、わが国の在留制度の枠内で保障されるにすぎないものであることは明らかである。また、不法な手段で入国ないし在留を継続した者であっても、入国後、その者ないしその者の子が学齢に達し、一定の期間を経過したという既成事実が発生しさえすれば、常に適法な在留資格を取得し得ると解することは、わが国の国益及び健全な法感情ないし社会常識に合致しないから、在留特別許可に関する裁量権の行使については、当該外国人の入国及び在留の経緯等を含む一切の事情が考慮されるべきであり、児童の福祉の点のみが特別に重視されるべきであるとする甲事件原告らの主張は採用できない。
  (2) 以上を前提として、甲事件原告らに在留特別許可を付与しないこととした本件裁決に裁量権の濫用が存するか否かにつき判断するに、証拠(甲15の1、2、29、乙12、15、20、21、27の1、29の2、原告夫本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
   ア 原告夫の実母は、原告夫が11歳のころからエドアルドと交際するようになり、以後、原告夫は、エドアルドを継父として成長したが、その後平成2年までの間は、特に必要性を感じなかったため、エドアルドと養子縁組することはなかった。エドアルドは弁護士で、ペルーのチャンゴヤペ市の市長を3期務めた経験を有し、平成10年まではトリビージョ大学で政治学の教鞭をとっており、原告ら家族がペルー在住当時は、その生活について全面的に援助を行っていた。
   イ 原告夫は、IDAD大学2年を卒業後、昭和62年ころからペルーの会社で稼働しつつ、原告妻と交際していた(平成3年2月ころ、婚姻)が、生活が楽でなかったため、日本で稼働して経済的に豊かな生活をしたいと考え、日本への入国を希望するようになった。このため、原告夫は、平成2年になって、それまで必要性を感じていなかったエドアルドとの養子縁組を行い、ペルーにいた出入国ブローカーであるアカミネなる人物に3000米ドルを支払って日本への入国手続を依頼した。アカミネは原告夫から受領した出生証明書等を利用して本件証明書を偽造ないし変造した。
   ウ 原告夫は、わが国に入国後、稼働関係が安定したことから、原告妻及び原告長男を順次呼び寄せた。同原告らは、在留許可の変更ないし更新申請のうち、原告夫の別表A′ないしC′の申請、原告妻のa′ないしc′の申請及び原告長男のア′及びイ′の申請については、いずれも前記アカミネの関係者に依頼してこれを行っていたが、平成6年のD′以降の申請については、原告夫がある程度日本語を話せるようになったため、原告夫が代表して自ら手続を行うこととし、アカミネのオフィスから関係書類の交付を受けた。原告夫及び原告妻は、遅くとも平成6年11月ころまでには、本件証明書が偽造ないし変造されたものであること及びこのような偽造書類を使用しなければ適法な在留資格は与えられないことを知るに至ったが、同原告らは、在留資格を得るためには偽造ないし変造に係る本件証明書を提出、使用することもやむを得ないと判断し、その後も本件証明書を使用して、自ら別表記載のとおり在留期間更新申請を行い続けた。
   エ 原告妻は、退去強制手続開始当初である平成12年6月19日には、原告夫がペルーに帰国するのであれば、家族で一緒に帰国しようと考えていたが、友人から在留特別許可の制度について聞いたため、子らの教育や今後の生活のことを考えると日本に残って働いた方がよいとの考えから、在留を希望するようになった。原告夫は、家族4人で共に生活することを希望している。
   オ 原告長男及び原告次男は、家庭内では日本語のほか、わずかにスペイン語を使用して会話しており、原告長男は幼児語程度のスペイン語は話すことができる。
  (3)ア 前記前提事実及び上記(2) で認定した事実によれば、原告夫及び原告妻は、専ら経済的動機からわが国に入国し、稼働してきたものであり、その手段として偽造ないし変造された本件証明書を使用して在留資格を不正に取得し、遅くとも平成6年11月ころには本件証明書が偽造されたものであることに気づいていたにもかかわらず、その後も自ら不正な手段による在留期間更新申請を続け、本件取消処分のなされた平成12年6月までの約5年半余り不法在留及び不法就労を継続してきたものであるところ、同原告らの上記行為は、わが国の出入国管理秩序を無視した違法なものといわざるを得ず、かかる違法行為に及んだ者に対して在留特別許可を行わないことが裁量権の濫用に該当するのは極めて特殊な場合に限定されるというべきである。
   イ この点につき、甲事件原告らは、裁量権濫用の事情として原告長男及び原告次男の学習権について主張しているところ、なるほど、原告長男は、わが国において小学校の教育課程を終了して現在中学校に通学中であり、ペルーに帰国した場合、環境の変化や生活習慣、言語の問題によりある程度の困難に直面することが予想されないではない。しかしながら、このような事態はひとり原告長男のみに発生するものではなく、父母の海外勤務等に伴って適応のための努力を余儀なくされている者は多数存在するのであるから、学習や生活の上で決定的な支障となるとは考え難い。しかも、原告長男は、原告夫及び原告妻が本件証明書が偽造されたものであることに気づいた平成6年11月当時、いまだ小学校に入学していなかったのであって、原告長男がペルーに帰国するについて上記のような困難が予想される状況に立ち至ったのは、本件証明書が偽造であることを認識した後も、なお、不正な手段で在留を継続することを選択した原告夫及び原告妻の判断に負う部分が大きい。
 また、原告次男は、平成9年7月に出生し、いまだ4歳と幼少であり、可塑性に富む年齢であって、ペルーに帰国した場合の適応は比較的容易であると考えられる。
 原告妻については、原告長男及び原告次男の母親であるという以外に、在留特別許可を相当とするような特段の事情は何ら存在せず、原告妻自身、在留を希望する理由として、子どもの教育の問題以外には経済的理由を挙げるにすぎない。しかし、原告ら家族がペルーで生活していた当時の状況は前記(2) で認定したとおりであって、最新のペルー情勢をしんしゃくしても、なお、原告らについて、ペルーに帰国することが困難な特段の事情があるとはおよそ認め難い。
   ウ 以上の認定、判断に、原告夫に対する第1次退令発付処分が有効と解されることを総合すれば、甲事件原告らに在留特別許可を与えないこととした本件裁決に裁量権を逸脱した違法は存しないというべきである。
  (4) また、甲事件原告らは、平等原則を根拠に、本件裁決は裁量権濫用に該当すると主張するが、原告らは単に当該家族の年齢構成等を主張するのみで、在留特別許可を得た他の事案との個別的、具体的類似点について何ら主張しないから、仮に同原告ら主張のとおりイラン国籍の5家族に対して在留特別許可が発せられた事実があるとしても、当該許可がどのような事情を考慮してなされたものであるかは全く不明であり、平等原則違反の主張としてはそれ自体不十分であるというほかない。
 4 争点(4) (第2次退令発付処分の違法)について
 本件裁決に違法がないことは前記3のとおりであるから、その違法を前提とする第2次退令発付処分の違法に関する甲事件原告らの主張に理由がないことは明らかである。
 5 結語
 以上の次第で、原告らの本件各請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 加藤幸雄 裁判官 橋本都月 裁判官 富岡貴美)

 
 
 別表〈省略〉