主文

 1 被告が原告に対し平成11年10月15日付けでした在留期間の更新を許可しない旨の処分を取り消す。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。 

事実及び理由

第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、中華人民共和国(以下「中国」という。)の国籍を有する原告が定住者の在留資格において本邦に在留していたところ、原告が平成11年6月16日付けでした在留期間更新の申請に対し、被告が同年10月15日付けで同申請を許可しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたのは、その裁量権の範囲を逸脱したもので違法であるとしてその取消しを求めた事案である。
 1 前提となる事実
  (1) 当事者
 原告は、1976年(昭和51年)3月7日に出生した中国籍を有する外国人である。原告の夫であるAは、中国残留邦人であるBの実子、CとDことEとの間に1974年6月8日出生した中国籍を有する外国人である(甲1、乙24、弁論の全趣旨)。
  (2) 原告らの入国の経緯
 Aは、平成4年6月2日、在留資格を定住者、在留期間を1年とする許可を受けて本邦に上陸し、以後、在留期間更新の許可を受けて本邦に在留し、平成10年の在留期間更新の許可によって在留期間は3年、その終期は平成13年6月2日となった(弁論の全趣旨)。
 原告は、平成9年8月、親戚を訪問中のAと中国で知り合った。原告とAとはその後文通による交際により親交を深め、同年12月9日、中国黒竜江省ハルビン市において婚姻の届出を了した(甲3の1及び2、乙2)。
 原告は、平成10年7月4日、新東京国際空港に到着し、東京入国管理局(以下「東京入管」という。)成田空港支局入国審査官から、在留資格を定住者、在留期間を1年とする許可を受けて本邦に上陸した(甲1、乙22)。
  (3) Aの起訴及び刑事事件判決
 Aは、平成10年9月22日、千葉地方裁判所に対し、営利目的密航者蔵匿罪を公訴事実とする出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)違反被告事件で起訴され、平成11年2月2日、同裁判所において、懲役4年(未決勾留日数中90日を同懲役刑に算入する。)及び罰金200万円に処する旨の判決を受けた。
 Aは、同年2月5日、東京高等裁判所に対し控訴したが、同年9月21日、同裁判所において控訴棄却の判決(未決勾留日数中160日を上記懲役刑に算入する。)を受け、同判決及び第一審判決は同年10月6日に確定した。Aは、栃木県所在の黒羽刑務所に収監され、同所において現在まで服役しており(乙17、19、30)、同年11月15日には退去強制手続の違反事件が立件されたが、その結果はいまだ出されていない(乙20)。
  (4) 原告の在留期間更新の申請及びこれに対する不許可処分
 原告は、平成11年6月16日、被告に対し、東京入管千葉港出張所において、在留期間の更新を申請した。被告は、同年10月15日、同居し互いに協力し、扶助を行う配偶者としての実態を有しているとは認められず、在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとは認められないとして、更新を不許可とする本件処分をするとともに、出国準備のため短期間の在留を希望する場合には、同月29日までに所定の手続を行うよう通知した(甲2)。
  (5) Aの在留期間更新申請
 Aは、平成13年6月2日まで在留期間を有していたところ、同年5月25日、父親のEを通じて、東京入管千葉出張所において、被告に対し、在留期間の更新を申請したが、被告は、同年7月23日、同更新を不許可とする旨の処分をした(弁論の全趣旨)。
 2 争点
 本件の争点は、被告が本件処分の通知書に記載した処分理由と本訴において主張している処分理由との同一性、及びそれが認められない場合におけるいわゆる処分理由の差替えの可否、すなわち処分理由差替えの有無及び可否(争点1)、争点1が肯定されるとした場合、差替え後の理由に基づく本件処分の適否、すなわち被告に裁量権の逸脱濫用があると認められるか否か(争点2)である。
 3 争点に関する当事者の主張
  (1) 処分理由の差替えの有無及び可否(争点1)について
   ア 被告の主張
 本件処分の通知書に記載された「あなたは、同居し互いに協力し、扶助を行う配偶者としての実態を有しているとは認められません。」との記載は、Aについて退去強制手続が執られることが確定している以上、原告が将来的に安定的・継続的に「定住者の在留資格をもって在留する者と同居し互いに協力し、扶助を行う」活動を行う者とは認められないという趣旨を述べたものであり、被告が本訴において主張している本件処分の理由とは異ならない。仮に、通知書上の理由の記載が本訴で主張する本件処分の理由とは異なるとしても、処分理由の差替えは許されると解すべきである。すなわち、取消訴訟の訴訟物は、処分の違法性一般であり、行政事件訴訟法は、取消訴訟における被告行政庁の主張の制限に関し特段の規定を設けていない。したがって、取消訴訟において、被告行政庁は、行政事件訴訟法7条により準用される民事訴訟法157条等の一般的な制限を除き、取消しを求められた処分の適法性を基礎付けるため、処分時の認定事実や根拠法規の解釈適用にとらわれることなく、訴訟物の範囲で客観的に存在した一切の事実上及び法律上の根拠を主張できるのが原則である。なお、本件処分の通知書には理由が附記されているものの、これは、申請者の利便を図るため便宜上行っているもので法律上義務付けられたものではないから、処分の理由の変更が理由附記制度の趣旨に反するおそれがあるという問題は生じない。
   イ 原告の主張
 行政手続法は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない(同法8条)と定めている。これは、理由を附記させることにより、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものである。
 本件処分について、通知書には「あなたは、同居し互いに協力し、扶助を行う配偶者としての実態を有しているとは認められません。」との不許可理由が附記されており、原告が東京入管千葉港出張所に出向いて説明を求めた際も、同様の理由が説明されただけであった。
 したがって、本訴提起時に原告の念頭にあったのは上記不許可理由であり、それに対する信頼は十分保護に値するから、理由の差替えを認めることは原告に対して不意打ちを与え、著しい不利益を課すことになる一方、原告に課す不利益によって得られる対立利益も存在しないから、本件においては、被告による理由の差替えは信義則上許されないというべきである。
 被告は、本件処分の通知書における理由附記は、申請者の利便を図るために便宜上行っているにすぎず、処分理由の差替えも許されると主張するが、その見解は不合理であって到底許されない。
  (2) 本件処分の適否(争点2)について
   ア 被告の主張
 (ア) 在留期間更新の許否の判断枠組み
 外国人の在留期間の更新が許可されるためには、在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由が認められることが必要であるが、相当の理由の有無を判断するに当たっては、まず、当該外国人が希望する在留資格についての在留資格該当性(当該外国人の行おうとする活動が法別表第一に類型化された活動又は別表第二に類型化された身分若しくは地位を有する者としての活動に該当することをいう。以下同じ。)を有するか否かについて判断し、次に在留資格該当性が認められる場合に、さらに、上記在留資格該当性を除くその他の諸般の事情を考慮した上で、在留期間の更新を認めるのが相当であるか否かを判断する。
 (イ) 在留資格該当性の判断
 法別表第一及び第二に定められた在留資格は、本来的には入国審査官が上陸の許否を審査するに当たって用いる基準であるが、入国審査の場合と、在留期間更新の審査の場合において、取扱いに整合性を欠くことは妥当ではないから、在留期間更新の前提としての在留資格該当性の判断に当たっては、法7条1項2号の規定を受けて定められた法第7条第1項第2号の規定に基づき同法別表第二の定住者の項の下欄に掲げる地位を定める件(平成2年法務省告示132号。以下「本件告示」という。)の内容、趣旨を十分尊重すべきである。
 そして、法が「定住者」という在留資格を認めたのは、「日本人の配偶者等の在留資格をもって在留する者で日本人の子として出生した者又は一年以上の在留期間を指定されている定住者の在留資格をもって在留する者」(以下「定住者の在留資格をもって在留する者等」という。)と婚姻し、我が国において社会通念上夫婦としての共同生活を営む外国人については、一定の在留期間を定めて本邦での居住を認めるのが相当であるという行政目的によるものである。
 したがって、「定住者」の在留資格が付与されるためには、法律上の婚姻関係が存在することのみでは足らず、「定住者の在留資格をもって在留する者等の配偶者としての活動」、すなわち、定住者の在留資格をもって在留する者等の配偶者である外国人が、民法752条に基づき我が国においてその配偶者である外国人と同居し、互いに協力し、扶助し合って社会通念上の夫婦共同生活を営むという活動実態が必要であり、在留期間が一定の継続的期間であることからすると、当該外国人が上記活動を安定的・継続的に行うことが必要である。
 (ウ) 退去強制事由該当者の配偶者に係る在留期間更新申請及び在留特別許可の扱い
 本邦に在留する外国人の配偶者であるとの身分関係に基づき「定住者」の在留資格を付与されている外国人(以下「従属配偶者」という。)については、これらの者の配偶者(以下「本体配偶者」という。)が法別表第一の上欄の在留資格又は「定住者」の在留資格を付与されて本邦に在留していることが、在留期間の更新を許可されるための前提となる。
 したがって、本体配偶者が退去強制事由に該当することを理由に、その在留期間更新の申請が不許可となったときは、これに伴い、従属配偶者についても、その者について独自に在留期間の更新を相当と認める理由がない限り、在留期間更新の申請が許可されることはない。従属配偶者が在留期間の更新を不許可とされたにもかかわらず、本邦から出国しないときは、法24条4号ロに該当する容疑により退去強制手続が執られることになるが、本体配偶者について在留特別許可が付与されないときは、従属配偶者についても、独自の事由がない限り、在留特別許可が付与されることはない。
 このことは、当該外国人が中国残留邦人の子孫として「定住者」の在留資格を付与されて在留している場合の当該外国人及びその配偶者の取扱いについても異なるところはない。
 (エ) 本件へのあてはめ
 原告の夫Aは、前記1・(3)のとおり、法違反である集団密航者の営利目的蔵匿罪により、平成11年2月2日、千葉地方裁判所において懲役4年、罰金200万円の有罪判決を受け、同年10月6日同判決が確定して現在服役中であるから、退去強制事由に該当する者である。そして、Aが在留期間の更新を申請したとしても、本来、そのような者について在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由はないと認められるから、在留期間更新の申請は不許可になる。しかも、Aは、中国残留邦人の子孫として定住者の在留資格を有する立場を悪用し、蛇頭と呼ばれる集団密航者仲介組織の構成員と結託し、主導的かつ積極的に、高額な報酬を目当てに法違反行為を繰り返し、我が国の法秩序を無視し、侵害していたものであって、その在留状況が極めて悪質であることは明らかであるから、在留特別許可が付与されることは到底考えられない。そうすると、Aは本件処分時において形式的にはなお在留資格を有し、在留期間が残存していたものの、これは刑事手続との関係で本邦に事実上残留しているにすぎないものであって(法63条参照)、刑の執行が終了するか、それ以前に仮出獄した場合には、Aに対しては直ちに退去強制手続が執られ、強制退去の対象となるものである。したがって、その配偶者である原告は、もはや、安定的・継続的に「定住者の在留資格をもって在留する者等の配偶者としての活動」を行うものとは認められない。
 (オ) 原告の主張に対する反論
 原告は、本件処分時においては、Aの在留期間がなお1年7か月残存していた時期であって、処分時から1年7か月後の事情がどのようになっているか全く不明の状態であったから、Aの在留期間が経過する前に被告が本件処分を行ったことは裁量権の逸脱濫用であると主張する。
 しかし、本体配偶者であるAの刑事事件が確定したことで、同人が強制退去の対象となることが確実となったから、その従属配偶者である原告に対し、上記刑事判決が確定した時点で在留期間更新の許否の判断をするか、Aの在留期間が経過した時点でその許否の判断をするか等は被告の裁量にまかされているというべきであり、被告は、そもそも最も適切な時に処分しなければならないというような効力要件を課せられてはいないばかりか、むしろ、Aに対する有罪判決の確定という相当の理由をもって処分したものであり、そこには何ら裁量権の逸脱濫用があったとはいえない。
 原告は、中国残留邦人が日本に帰国する際には、1984年3月17日に日中両国政府が交わした口上書に従い、戸籍簿である戸口簿が抹消されるため、Aのような中国残留邦人の子孫については、中国が退去強制による送還の受入れを拒否しており、Aについて仮に退去強制令書が発付されたとしても、中国への帰国は事実上不可能な状態であり、現実には本邦での生活が余儀なくされることは明らかである旨主張する。
 しかし、中国においては、中国残留邦人の場合に限らず、ある者が定住目的で中国を出国する場合には、その戸口簿の記載を抹消するものであり、それを抹消したとしても、その後の中国への再入国、再定住等が認められないことはなく、戸口簿は我が国でいう住民票に相当するものであって、我が国でいう戸籍とはその性質が異なるものであるから、原告の主張は前提において誤っている。
 また、中国残留邦人の親族が、退去強制令書の発付を受けた場合に、中国側が受入れを拒否する立場を表明する場合はあるが、中国残留邦人の子孫のすべてについて受入れを拒否しているわけではないのであるから、上記のような事例があることをもって直ちに中国残留邦人の子孫につき中国へ送還することが事実上不可能であるということはできない。従属配偶者については、本体配偶者が法別表第一の上欄の在留資格又は「定住者」の在留資格を付与されて本邦に在留していることが在留期間の更新を許可されるための前提となるのであり、本体配偶者について退去強制令書が発付されれば、もはや本体配偶者の在留資格を観念する余地はなくなるから、Aの送還の可否が本件処分の違法性を左右することはない。
 さらに、仮に原告の主張が、中国残留邦人の子孫であるAを中国へ送還できないから、原則的に在留特別許可を付与しなければならず、その配偶者である原告も「定住者」での在留期間更新が認められるべきであるとの主張であると善解したとしても、中国残留邦人の子孫に対して優遇措置というべき特別な取扱いをすることが不合理な結果を招来することは明らかであるし、実務上も中国残留邦人の子孫に対して退去強制令書が発付されているから原告の主張は失当である。さらに、Aの在留状況の悪質性は多言を要さず、このように素行が不良である者に対して在留特別許可が付与されることは到底考えられないものであるから、原告の主張はこの点においても失当である。
 原告は、中国残留邦人問題についての日本政府の責任や日中間の口上書の存在が中国残留邦人の子孫の法的地位に影響し、中国残留邦人の子孫については、特別永住者等と同じ法的地位を与えるべきである旨主張する。
 しかし、特別永住者は、法の特例として制定された日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(以下「特例法」という。)に基づき本邦に永住することができるのであって、中国残留邦人の子孫に対しては、特例法に相当する法令は制定されていないから、法律的には原告は、一般の外国人と同様であるといわざるを得ず、退去強制の制限がないことはもとより、在留特別許可に係る被告の裁量権の範囲がき束的に縮小されるものではなく、原告の主張は失当である。
 原告は、本件処分によりAに対する面会等の活動ができなくなるという不利益が生じると主張するが、夫であるAに対する有罪判決の確定により、原告も近い将来本国に帰国してAとともに本国において生活することが確実となったのであるから、もはや定住者の資格で本邦に生活の本拠を置くべき立場にはなく、むしろ帰国して本国に生活の本拠を置いて生活を営み、近い将来におけるAの帰国を待つことこそが、原告及びAの夫婦生活の実態に適合するものである。原告の主張するAとの面会等については、短期滞在資格を得て入国することによって可能であるから、それ以上に、本邦において生活の本拠を構えることが前提となる定住者の資格まで付与して、Aのいない社会において活動し、生活の基盤を形成し、それを発展すべき理由とはならない。したがって、原告には、本件処分時において定住者としての在留資格該当性が認められないのであって、このような被告の判断には何ら裁量権の逸脱濫用は存せず、原告の主張には理由がない。さらに、Aは、平成13年6月2日をもって在留期間を経過しており、定住者としての在留資格を失ったものであるから、上記のようにAに対して在留特別許可が付与されることは到底考えられないことをも考慮すれば、原告に定住者としての在留資格該当性がないことはもはや明らかである。
 (カ) 在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由
 原告の本件処分時までの在留歴は1年3か月にすぎず、今回が初入国であったから、原告の本邦とのつながりは希薄であり、本国に帰国したとしても生活は十分に可能であるし、その他原告については、本件告示に類型化して列挙された外国人の場合と同視し、あるいはこれに準じるものと考えられる人道上の理由その他本邦における居住を認めるべき特別の事情があるとは認められないから、原告独自に在留期間を更新すべき相当の理由はない。
 原告は、本件処分により原告が中国に退去させられることが人道上許されないと主張するが、本件処分はそもそも原告を退去強制する処分ではなく、原告を退去強制するか否かは別途執られる退去強制手続において決定される事柄であって、本件処分をもって直ちに退去強制されるものではないから、この点において、原告の主張は失当である。
 さらに、原告は、Aの家族には原告が必要である旨主張するが、Aの両親は病身であるもののいずれも稼働しており、むしろ原告に資金援助をしていること、Aの祖母は生活保護を受けるために別居していることが認められ、必ずしも原告に依存した生活をしているわけではない。原告は、来日以前は本国で稼働しており、本国には両親や兄弟がいること、A名義で借りた家があること等により、原告が本国に帰国しても生活に不安は全くない。したがって、これらの点からしても、原告について本件処分をした被告の判断がその裁量権を逸脱濫用したものではないことは明らかである。
 原告は、Aの更生に原告が必要不可欠であると主張するが、そもそもAの更生の手助けは、日本にいなければ不可能なことではないから、定住者資格を付与する理由とはならないし、原告は、いまだにAが他者からの誘惑により犯行に及んだと主張している等の事情からすると、Aを適正に監督して更生させることは期待できないというべきである。したがって、このような事情をみても、原告を本邦に在留させることが適当と認めるに足りる相当な理由は存しないというべきである。
 (キ) 短期滞在への資格変更許可について
 被告は、原告に対し、平成11年10月29日までに短期滞在への在留資格変更の申請があった場合には、当該申請を受理し、当該変更を許可することがある旨表明していたが、原告はそれをしなかったのであり、原告が求めていないにもかかわらず被告が原告には定住者として在留期間の更新を認めるに足りる相当な理由がないことを根拠に、原告の意に反してその在留資格を短期滞在に変更する旨の申請ありとして取り扱い、これを許可する旨の処分をすることは許されない。
   イ 原告の主張
 (ア) 差替え前の理由に対し
 原告は、定住者の在留資格を有する夫Aの配偶者であり、本件処分時、同居こそしていなかったものの、深い愛情で結ばれており、共に婚姻関係を継続する強い意志を有し、刑務所在監中である夫に対し面会や文通を通じて同人の早期の社会復帰を目指し、更生の手助けをしていたものであり、Aの配偶者としての実態を十分に備えていた。にもかかわらず、本件処分は、配偶者としての実態を有しているとは認められないという事実とは異なる理由に基づいてされたものであるから、その裁量権の範囲を逸脱しており違法である。
 (イ) 差替え後の理由に対し
  a 本体配偶者、従属配偶者という考え方自体の不合理性
 被告は、在留期間更新の申請が問題となる本件においても、上陸申請の許否の基準を定めた法7条1項2号の規定に基づき、本件告示5項を基準とする旨主張するが、上陸申請の際の基準と在留期間更新の際の基準とを同様に考えるのは妥当ではない。本来、被告としては、申請者自身の資格の有無を判断すべきであるところ、定住者の配偶者としての上陸申請の場合には、従属配偶者が入国に適しているか否かを判断すべき資料は存しないから、本体配偶者の在留資格を基準に審査を行うことにも合理性はあり、上陸申請の際に本体配偶者、従属配偶者という観点が必要になることは否めない。しかし、いったん本邦に入国し、「定住者の配偶者」との資格において定住者となった者が在留期間更新を申請した場合には、被告にはその者自身について判断する資料が存するのであるから、この場合には、本体配偶者を基準にする必然性は全くない。にもかかわらず、本体配偶者の資格だけを問題とし、申請者自身の固有の資格を検討せずにされた本件処分は、被告の裁量権の範囲を逸脱しているといわざるを得ない。
 原告がAと出会った際、既にA及びその両親は日本で安定的な生活を始めており、原告がAと結婚することは、同時に原告自身も日本に永住することになることを意味し、原告の両親は、Aが収監されている現在もなお、原告が夫を支えながら日本で生活することを支持している。原告は、日本に永住する固い決意を持って入国し、日本語を習得し、定期的に稼働することで月額20万円の収入が得られるようになっており、今後日本で生活するための基盤ができている上、Aの両親は日本語を解さず、病弱でもあるため、原告は同人らの通訳をし、収入面でも支え、家事労働を担当しており、両親らの生活を支えるために原告の存在は不可欠である。このような原告の生活状況にかんがみれば、原告自身に在留期間更新を適当と認めるに足りる相当な理由があることは明らかである。
  b 本体配偶者に退去強制手続が執られることが確定しているとの前提が不合理であること
 仮に在留期間更新の際にも、従属配偶者については本体配偶者の処遇を前提に在留資格を判断するという考え方が認められるとしても、被告の主張する差替え後の理由である本体配偶者に退去強制手続が執られることが確定しているという前提は誤っている。本件処分時において、Aは懲役4年の有罪判決を受けて服役し始めたばかりだったのであるから、その後4年間、仮釈放されるとしても2年間以上は日本に滞在することが明らかであった。Aが日本に在留し続けるのは、裁判所の判断に基づき被告自身がその刑を執行しているからであって、その間はAが強制退去処分を受ける可能性は皆無である。Aの強制退去処分が具体的手続に入った段階なら格別、未だその可能性が具体化されていない時期に、本体配偶者に退去強制手続が執られることが確定しているとして、従属配偶者の在留期間更新を認めないのは、明らかに被告の裁量権の範囲を逸脱している。
 また、被告は、Aからの在留期間更新の申請が不許可になることが、本件処分時において確定しているかのように主張するが、同申請については、申請時における法24条該当性の有無を判断するのであり、同申請が不許可となったとしても、異議申立てがされれば、在留を希望する理由、家族状況等の諸般の事情を総合考慮して、在留特別許可を付与することもあり得る。本件処分時は、Aの在留期間を1年7か月も残している時期であり、原告本人には退去強制事由のない状態であったから、処分時から1年7か月後の事情は全く不明の状態であった。
  c Aが中国残留邦人の子孫であることの特殊性
 中国政府は、1984年3月17日に日中両国政府が交わした口上書に従い、中国残留邦人が日本に永住帰国する際に、家族が再び離散することのないようにとの配慮から、日本に帰国した中国残留邦人及びその家族については戸籍簿である戸口簿から抹消し、中国残留邦人の家族が日本から強制送還されることを拒否している。Aは旅券を喪失しており、強制退去のためには中国政府による旅券発行が不可欠であるところ、中国残留邦人の子孫であるAに対しては中国政府が旅券の発行を拒否することは明らかであり、Aに対し退去強制令書が発付されたとしても、同人が中国に帰国することは事実上不可能である。したがって、Aは強制退去処分後もなお日本での生活を継続することになることが明らかである以上、原告が、将来的に、安定的・継続的に定住者の在留資格をもって在留する者と同居し互いに協力し、扶助を行う活動を行う者と認められないとはいえない。したがって、差替え後の理由によっても、本件処分は被告の裁量権の範囲を逸脱しており、違法であるというべきである。
 また、特例法により、在日韓国・朝鮮人、在日中国・台湾人などの一定の定住外国人については、法24条に該当する場合であっても、強制退去されない場合が存在する。したがって、法24条は、すべての外国人に対し当然に適用されるわけではなく、一定の外国人については法律上明確に除外されているのであり、同様の理由を有する外国人に対しても法務大臣の裁量権の範囲はき束的に縮小すると考えるのが相当である。そして、中国残留邦人及びその子孫は、前記定住外国人と同様、過去の歴史的経緯の中で日本と密接な関係を有するから、日本での定住期間は短期間ではあるものの、それは政府の政策故に帰国不可能であったためであり、中国残留邦人及びその子孫の定住意思は一層強い。また、原告を1人中国に退去させることは家族との離散を生じさせるものであり、人道上許されないことは定住外国人の場合と同様である。以上により、中国残留邦人及びその子孫は、その在留の歴史性、定住性及び家族離散回避という点で、長期定住外国人と同様であるから、その法適用においても、長期定住外国人に適用される法の適用を受けるべきであり、中国残留邦人の子孫に対する退去強制の裁量権の範囲には限界があるというべきである。
  d 本件処分が人道上許されないこと
 原告をはじめ、Aの家族はみな日本での永住を希望しているが、Aの両親は稼働してはいるものの病弱であり、祖母も生活保護を受けているため、Aが一家の支柱として収入を得なければならず、それが1・(3)の刑事事件の大きな誘因となったが、Aが服役しているため、Aの家族の生活は原告にかかっている。そのため、原告を中国に送還することはAの家族の生活を危うくすることになり、人道上許されないというべきである。
  e 短期滞在として在留を許可する余地があったこと
 仮にAが強制退去させられる可能性があるとしても、被告はcで主張したAの特殊事情を知悉していたのであるから、原告が本件申請を行った際に、単に不許可処分にするのみでなく、短期滞在者としての在留を許可すべきであったといえ、この点において、被告の本件処分は裁量権の範囲を逸脱しており違法である。
 さらには、少なくとも、本件処分時、本体配偶者たるAについては、将来的に中国に帰国することとなるのか、仮放免又は在留特別許可により日本での生活を継続することになるかが未確定であったのであるから、被告が主張するとおり、従属配偶者は本体配偶者の処遇を前提にその在留資格を判断されるべきものであるとすれば、本体配偶者の処遇が未確定の間は、従属配偶者の処分も保留にし、本体配偶者の処遇の帰趨が明らかになってから判断することが法により要請されているといえる。したがって、具体的には、被告は単に本件処分をするのではなく、Aの処遇が明らかになるまで原告に短期滞在者としての在留資格を与えて在留を許可すべきであったのであり、現にこのような取扱いは実務上行われているものである。にもかかわらず、本体配偶者の処遇が未定の間に従属配偶者たる原告に対して在留期間更新の不許可処分のみをした被告の本件処分は裁量権の範囲を逸脱しており違法である。
第3 争点に対する判断
 1 処分理由の差替えの有無及び可否(争点1)について
 本件処分は、その通知書(甲第2号証)に処分の理由として、「あなたは、同居し互いに協力し、扶助を行う配偶者としての実態を有しているとは認められません。」と記載されていたことからすると、被告がその時点において、原告とAとの間の婚姻の実態が失われたと判断し、そのことを理由としてされたものと解するほかない。
 この点について、被告は、同理由書の記載は、その時点で原告とAとの婚姻の実態が失われたという趣旨ではなく、夫のAについて退去強制手続が執られることが確定している以上、原告が、将来的に安定的・継続的に「定住者の在留資格をもって在留する者と同居し互いに協力し、扶助を行う」活動を行う者とは認められないという趣旨を述べたものであり、被告が本訴において主張する本件処分の理由と同一である旨主張するが、上記理由書の記載は原告に配偶者としての実態が認められないと言い切っているのであるから、もはやその時点で婚姻の実態が消滅していると指摘しているものと解するほかなく、これを被告主張のように解するのは困難であり、被告は本訴において本件処分の適法性を基礎付ける主張を変更したもの、いわゆる処分理由の差替えをしたものとみるのが相当である。
 この点に関し、原告は、処分理由の差替えは許されない旨主張するので以下検討する。
 一般に、取消訴訟における訴訟物は、処分の違法性一般であり、処分の適法性に関する主張立証責任は行政庁側が負担すると解されるところ、行政事件訴訟法には、同法7条により準用される民事訴訟法157条等のほかには、主張立証の制限に関する規定は設けられていないから、主張立証責任を負担する被告としては、処分当時に存在した事実に基づいている限り、処分の同一性を失わせない限度において、処分の適法性を基礎付けるすべての事実上の主張及び法律上の主張を主張し得ると解すべきであり、処分時に異なる理由に基づいてある処分がされていたとしても、取消訴訟の段階において、適法性を基礎付け得る別の処分理由を主張することも許容されるというべきである。
 なお、原告は、行政手続法8条を根拠に理由の差替えが許容されない旨主張するが、外国人の出入国、難民の認定又は帰化に関する処分又は行政指導に関しては同法は適用されないのであるから(行政手続法3条1項10号)、原告の主張は前提を欠くものというべきである。また、原告は、処分理由の差替えを認めるとすると、理由附記制度が設けられた趣旨を没却する旨主張するが、外国人の在留期間更新の申請に対する不許可処分に理由を附記すべきとの法令上の定めは設けられていないから、本件処分の理由書の理由の記載は法律上義務付けられたものではなく、任意に行われたものにすぎないというべきであり、原告の主張は失当である。したがって、本訴においては、被告が主張する差替え後の理由について、それが本件処分の適法性を基礎付けると認められるか否かについて以下検討することとする。
 2 本件処分の適否(争点2)について
  (1) 被告の裁量権
 法21条3項によれば、本邦に在留する外国人から在留期間の更新の申請があった場合には、法務大臣は、当該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することとされているが、上記のとおり更新事由が概括的に規定され、その判断基準が特に定められていないのは、更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からであると解される。しかるに、法務大臣の上記裁量権の行使も恣意が許されないことは当然であり、その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるというべきである(最高裁判所昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1323頁)。
  (2) 在留期間更新の判断枠組み
   ア 在留期間の更新の制度は、我が国に在留している外国人の申請により、現に有する在留資格を変更することなく、従前許可された在留期間に引き続き、さらに一定期間適法に我が国に在留できる法律上の地位を付与する処分であるところ、その許可は、当該外国人が更新時において有する在留資格に該当する要件を充足していることを当然の前提としているものであって、その要件を欠く者からの更新の申請はこれを認める余地がないことはいうまでもない。そこで、本件で問題となる「定住者」の在留資格を認められるための要件について検討する。
   イ 本邦に在留する外国人の在留資格は、法別表第一又は第二に掲げられているとおりであり、別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者は本邦において同表の下欄に掲げる活動を行うことができ、別表第二の上欄の在留資格をもって在留する者は、本邦において同表下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動を行うことができるとされている(法2条の2第2項)。また、上陸許否の審査においても、入国審査官は、当該外国人の申請に係る我が国において行おうとする活動が虚偽のものではなく、法別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動のいずれかに該当することを審査すべきこととされている(法7条1項2号)。以上の各規定からすると、法は、個々の外国人が我が国で行おうとする具体的活動内容に着目し、一定の在留活動を行おうとする者に対してのみ、その活動内容に応じた在留資格を与えて、その入国及び在留を認めることとしているものということができ、定住者である外国人についてもこのことは同様に妥当するものというべきである。
   ウ したがって、法7条1項2号の規定を受けて設けられた本件告示5項によれば、日本人の配偶者等の在留資格をもって在留する者で日本人の子として出生したもの又は1年以上の在留期間を指定されている定住者の在留資格をもって在留する者の配偶者に係るもの(以下「定住者の配偶者等」という。)は、定住者としての地位を認められることとなるが、定住者と法律上婚姻した外国人が定住者の配偶者等の在留資格によって我が国への上陸許可を得るためには、単に、当該外国人が定住者と法律上有効な婚姻関係にあるというだけでなく、当該外国人が我が国において行おうとする活動が、定住者の配偶者としての活動に該当することが必要であると解するのが相当である。もっとも、本件告示5項には、定住者の配偶者等の活動内容は具体的に定められてはいないため、社会通念に従ってその内容及び範囲を画するほかないところ、婚姻は、夫婦としての同居・協力・扶助の活動を中核とするものであるから(民法752条)、上記同居・協力・扶助の関係を前提とし、これを維持しつつ行われる諸活動がこれに該当するものというべきである。
  (3) 本体配偶者の在留資格及び在留期間と従属配偶者の在留期間更新の許否との関係
 定住者の配偶者等の在留資格において我が国に在留する外国人については、日本人の配偶者等の在留資格の場合とは異なり、当該外国人の配偶者も定住者という在留資格において我が国に在留する外国人であることから、相手方配偶者(被告が主張するところの「本体配偶者」であり、以下「本体配偶者」という。)の在留資格及び在留期間の有無と当該外国人(以下「従属配偶者」という。)のそれとの関係をどのように解するか、具体的には、従属配偶者の在留期間更新が許可されるためには、本体配偶者が在留資格及び在留期間を有していることが必要か否かが問題となる。
 この点につき、被告はこれを必要とする旨主張するのに対し、原告は、在留期間更新の許否を判断する際には、上陸申請の許否を判断する場合とは異なり、従属配偶者は既に本邦に在留しており、被告としては、その者の在留状況等の独自の事情を把握できることから、本体配偶者の在留資格等を問題とすることなく、申請者自身である従属配偶者固有の事情だけを基に在留期間更新の許否を判断すべきである旨主張する。
 しかるに、本件告示5項の規定の仕方からみても、従属配偶者の在留資格は、本体配偶者である定住者のそれに由来するものであることが明らかであるから、本体配偶者が在留資格を喪失した場合又はその在留期間が消滅又は失効した場合には、従属配偶者の在留資格にも無視し得ない影響があるというべきであり、この点を問題とする必要がないとする原告の主張は採用し得ない。しかし、従属配偶者もまた定住者の在留資格を与えられていた以上、本邦における定住を前提とした幅広い活動を行っていることが当然に予想されるのであるから、その生活実態を一切考慮することなく、本体配偶者の在留資格の喪失又は在留期間の満了という一事をもって従属配偶者の在留資格を喪失させるべきであるとするのは、法が従属配偶者にも本体配偶者と同一の定住者という資格を付与した趣旨に反するものといわざるを得ない。このような観点からすると、たとえ本体配偶者が在留資格を喪失し又はその在留期間が満了した場合においても、従属配偶者について在留期間更新の許否を決するに当たっては、そのような事態の発生を前提としつつ、従属配偶者のそれまでの活動状況や、生活実態を具体的に検討し、法別表第二の「法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者」に該当する場合には、むしろ在留期間の更新を許可すべきであり、このような検討を経ないでされた更新許否処分は考慮すべき事情を考慮しないでされたものとして違法というべきである。
 また、上記のように本体配偶者の在留資格の喪失等は無視し得ないものではあるが、それは、後記(5)のとおり、従属配偶者の在留期間更新時において、既に本体配偶者につき在留資格喪失等の事由が具体的に発生しているか、更新後の在留期間中に発生することが確実な場合に限るべきであり、本体配偶者がいまだ在留資格を喪失しておらず、結果的に喪失が予想されるとしてもその時期が不明確で、なお相当期間従前の在留資格のまま在留する可能性も否定できない場合には、もはや従属配偶者に在留を継続させる必要のないことが明らかであるような特段の事情がない限りは、その在留期間の更新を認め、その期間中に本体配偶者が在留資格を喪失したことによる不都合が生ずるときには、先にした更新許可処分を事情変更を理由に撤回することによって対処すべきものである。このような更新許可処分の撤回については、法律上明文の根拠はないが、行政処分の通有性として上記のような場合には当然に許されるべきものである。
 そこで、以下ではこのような考え方を前提として、本体配偶者であるAの在留資格該当性及び在留期間について検討する。
  (4) Aの在留資格該当性及び在留期間
   ア 在留資格を有して我が国に在留中の外国人で、法74条から74条の6まで又は74条の8の罪により刑に処せられた者に対しては、退去を強制することができるが(法24条4号ホ)、その場合における当該外国人の在留資格及び在留期間の効力については法は何ら規定を設けていないことからすると、当該外国人が退去強制事由に該当することになった場合でも、その者が在留資格を喪失し又は在留期間が当然に消滅又は失効するとはいえないと解すべきである。この点につき、被告は、法24条4号ホに該当する者は、形式的には在留資格を有し、在留期間が残存していたとしても、刑事手続との関係上、事実上残留しているにすぎない旨主張するが失当である。
 そして、前記第2・1・(3)のとおり、本体配偶者であるAは、平成11年2月2日、千葉地方裁判所において、法74条の4第2項違反行為により懲役4年の判決に処せられ、同年10月6日、同判決が確定したことから、法24条4号ホの退去強制事由に該当することとなったが、同人は定住者としての在留資格を有し、その在留期間は平成13年6月2日までであったから、本件処分時において、Aは定住者として1年7か月余りの在留期間を有していたものであり、前記認定のとおり、この時点においては、同条違反事件としての立件すらされていなかったのである。
   イ 前記第2・1・(3)のとおり、Aに対する刑事事件判決は、平成11年10月6日に確定したことから、同人の刑期は同日から起算されるところ(刑法23条1項)、Aに科された懲役刑の刑期は4年であったから、第一審判決及び控訴審判決により算入の認められた未決勾留日数合計250日を考慮しても、なお3年余りの刑期を残しており、有期刑についてはその刑期の3分の1を経過しない限り仮出獄の可能性がないことからすると(刑法28条)、平成11年10月6日から少なくとも1年間はAが我が国に在留することは明らかであった。また、一般に、このような外国人については仮出獄が認められないまま刑期の終了に至って初めて退去強制手続が開始されることも少なくないことは、同種事件を通じて当裁判所に顕著な事実である。
   ウ そうするとAは、本件処分時である平成11年10月15日の時点において、法律上在留資格及び在留期間を有しているのみならず、事実上も、少なくとも1年間は我が国に在留することが明らかであったと認められる。
  (5) 本体配偶者に退去強制事由が発生した場合の従属配偶者の取扱い
 上記(4)のとおり、本件では本体配偶者であるAに退去強制事由が発生してはいるものの、未だ我が国に在留することが法律上及び事実上明らかであることが認められるから、従属配偶者である原告について在留期間の更新の許否を判断するに際しては、本体配偶者は在留資格を有し、少なくとも上記在留期間は在留することを前提とすべきである。
 この点につき、被告は、Aが将来在留期間更新の申請をしたとしても許可されることはなく、同人の在留状況の悪質性からみても、在留特別許可が付与されることもないから、将来退去強制手続が執られることが明らかであり、もはや原告は、将来的に安定的・継続的に定住者の配偶者としての活動を行うものとは認められない旨主張する。
 しかるに、そもそも、法が、我が国に在留する外国人については、その在留期間を区切り、期間が経過するごとに、国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益保持の観点から、法務大臣の広範な裁量権に基づき当該外国人の在留期間更新の許否を考慮することとしていることから、法の定め及び法を受けて設けられた本件告示の定めは、申請が許可された場合に認められる在留期間内に、法又は本件告示により認められた地位を有する者としての活動を行うことが相当であるか否かという点を考慮すべきことを予定したものであると解するのが相当である。したがって、法務大臣は、在留期間更新の許否を判断するに当たり、当該許可により認められる在留期間のみならず、それ以降の長期間にわたって申請者が安定的・継続的に当該地位を有するものとしての活動を行う蓋然性を有するか否かについてまで考慮する必要はなく、むしろすべきではないというべきであるから、被告が主張するように在留期間更新の許否を判断するに当たり、申請者の行う活動が「安定的・継続的」に行われるか否かという要件を考慮する必要があるかについてはそもそも疑問がないわけではないが、仮にそれを要件とするとしても、申請が許可された場合に認められる在留期間に限って「安定的・継続的」に行われるか否かを判断すべきであるというべきである。そうすると、被告の主張を前提としてもなお、原告は、少なくとも定住者としての在留期間である1年間は、「安定的・継続的」に婚姻関係を維持するための活動を行う可能性を有していたのであるから、この点からは在留期間の更新を拒むべき事由はなかったというべきである。
 また、被告は、Aに対する刑事判決が確定した時点で近い将来同人が強制退去の対象となることが確実となったから、その従属配偶者である原告に対して、上記刑事判決が確定した時点で在留期間更新許否の判断をするか、Aの在留期間が経過した時点でその許否を判断するか等は被告の裁量にまかされており、被告は、そもそも最も適切な時に処分しなければならないというような効力要件を課せられていない旨主張する。
 確かに、Aの罪名は、法74条の4第4項違反(営利目的密航者蔵匿罪)であり、同罪が我が国の出入国管理の適正さを害するものであって、到底看過し得ないものであること、Aが同犯罪行為において果たした役割等からすると、同人の在留状況は悪質であって、在留期間の更新は不許可とされ、異議の申出をしたとしても、法務大臣による在留特別許可(法50条1項)も付与されない可能性が高いとはいえるが、それはあくまでも原告が更新を申請した在留期間が経過した後に問題となる事柄であるから、次の更新申請があった場合に考慮すべきであり、それで足りる事項である。それらを理由として原告の在留期間更新の申請に対して不許可処分をすることは、要件がないにもかかわらず、将来の不許可処分をいわば先取りして行っているものと評価せざるを得ない。
 さらに、被告は、最も適切な時に処分しなければならないというような効力要件を課せられていない旨主張するが、そもそも、法務大臣の在留期間更新の許否処分は外国人の出入国管理という警察権の行使の一環であり、我が国における公共の秩序維持に必要な範囲で謙抑的に行使されるべきものであるから(警察比例の原則)、その意味においては、被告は、最も適切な時に処分しなければならない義務を負担しているというべきであり、被告の主張は失当である。
  (6) 原告の在留状況等
 前記第2・1の前提となる事実並びに甲第3号証の1及び2、第4号証の1及び2、第7号証の1及び2、第9号証の1及び2、第10号証の1及び2、第11号証の1及び2、第12号証の1ないし10、乙第1号証、第9号証、第17号証、第26号証及び原告本人尋問の結果によれば、次の各事実が認められる。
   ア 原告は、平成10年7月4日、新東京国際空港に到着し、在留資格を定住者、在留期間を1年とする許可を受けて本邦に上陸し、肩書地においてA及びその両親と同居生活を開始した。原告は、千葉県の帰国者研修センターにおいて、日本語を勉強するかたわら、平成11年1月27日からは千葉市a区b町c-d所在のウィシュトンホテル千葉においてアルバイトを始めたが、平成11年3月28日、交通事故に遭い、16日間の入院の後、通院も余儀なくされたことから同所の勤務をやめ、短期間のアルバイトを経た後、現在は二宮産業において週5日稼働している。
 また、上記日本語研修は8か月間の予定であったが、Aが平成10年9月2日、後記ウの法74条の4第2項違反の罪により逮捕されたことから、生活費を稼ぐため、帰国者研修センターに通うことはやめ、現在は、週1回程度、ボランティアの大学生に日本語を教わっている。
   イ Aの両親のうち、父のEは前田製作所千葉工場において稼働し、月額27、8万円の収入を得ており、母のCは、午前中のみのパート勤務をして月額15万円余りの収入を得ているが、Eは糖尿病、Cには多発性関節炎の持病があり、いずれも通院加療中である。E及びCはいずれも日本語をよく解しないことから、原告が同人らの通訳を行い、持病のある同人らに代わって家事も担当している。祖母のBは、原告らとは同居しておらず、千葉市E”区内の公団住宅に居住し、生活保護の支給を受けている。Bは、高血圧症、高脂血症、狭心症のため、通院加療中であり、原告はしばしば様子を見に通っている。
   ウ Aは、原告に対し、野菜を運ぶ運転手として稼働していると説明していたが、平成10年9月22日、中国人であるFらと共謀の上、営利目的で、同年6月上旬から7月18日ころまでの間にかけて、氏名不詳者が上陸させ、Fらが収受した集団密航者合計33名を千葉県松戸市内の建物内に匿ったという公訴事実により千葉地方裁判所に対し起訴された。弁護人は、蔵匿した者の一部につき密航者であるとの認識がなかったので故意がない、Aは共犯者の配下の者からけん銃を突きつけられて脅迫されたため、期待可能性がない、営利目的がない等の主張をして争ったが、すべて排斥され、平成11年2月2日、同裁判所において、懲役4年及び罰金200万円の有罪判決を受けた。Aは、同年2月5日、東京高等裁判所に対し控訴したが、同年9月21日、同裁判所において控訴棄却の判決を受け、同判決及び第一審判決は、同年10月6日に確定した。Aは、栃木県所在の黒羽刑務所に収監され、現在まで服役している。
   エ 原告は、Aの未決勾留期間中は、週1、2回程度、同人が栃木県所在の黒羽刑務所に移監された後は、月2回程度、中国語の通訳の立会い可能日には必ず面会に出かけ、日本語の書籍等の差入れをしたり、はがきや封書のやりとりを行うなどして、配偶者としてAの更生を支えるために努力している。Aもまた、原告に対し、「出たら絶対にいまと同じようなつらいさ二度と発生しないように保証します きみと一緒にずっと幸せな暮らしする きみに一生な幸福してあげる 永遠に愛しているよ」等と書き綴った手紙を送るなど配偶者である原告の存在を支えとして更生への途を歩んでおり、両者ともに婚姻関係を解消したいという意思を有してはおらず、義父母ともども我が国での在留の継続を強く希望している。
   オ 以上の事実によれば、原告は、本邦へ入国後はAと同居生活をし、互いに協力、扶助しており、Aの逮捕以降は、可能な限り面会や文通を行うことにより、夫であるAの更生に努力していることが認められる。そうすると、平成10年9月以降同居することは不可能であったものの、それ以外に可能な夫婦としての協力、扶助義務を尽くしていたものと評価できるから、原告は、定住者の配偶者としての実態を有していたものと認められる。
  (7) 在留期間の更新を適当と認める相当性について
 前記(6)の認定事実によれば、原告は、本邦に入国して以後、法違反行為はしておらず、日本語の勉強をしながらまじめに稼働して生活していることが認められる。したがって、原告の入国は今回が初めてであり、本邦における在留期間はまだなお少ないとはいえ、在留期間の更新を不許可とすべき事情は特段認められないというべきであるし、逆にこれを不許可とすることは、Aに対してはもとより同居している義父母に対しても生活の大きな支えを喪失させるに等しい行為であって、人道上極めて理不尽な行為というべきであり、被告に与えられた裁量権の範囲をはるかに超えたものというほかない。
  (8) 施行規則の改正について
 法施行規則(昭和56年法務省令54号)3条の別表第二が平成11年8月に改正され、同年10月1日から施行されたことにより、従来、定住者について認められていた在留期間が「3年、1年又は6月」から「3年又は1年」に変更されたため、本件処分時においては、定住者の配偶者については在留期間の最短が6か月から1年に延長されたことになる。そもそも、施行規則が1年より短期の在留期間を許可することを認めない趣旨であるかについて疑問がないわけではないが、仮に、1年又は3年のいずれかの在留期間しか許可できないと解したとしても、前記のとおり、Aは法律上及び事実上最低1年間は本邦に在留することが明らかであったから、施行規則の改正は、原告の在留期間の更新の許否に影響しないというべきである。
  (9) 小括
 以上によれば、本件処分は、本体配偶者であるAが法律上及び事実上在留することが明らかであるにもかかわらず、従属配偶者である原告が「安定的・継続的」に定住者の配偶者等としての活動を行い得ない者であるとみなして、在留期間の更新を不許可としたものであると認められ、その判断は、事実の基礎を欠き、社会通念上著しく妥当性を欠いたものであることが明らかであって裁量権の範囲を逸脱したものであるというほかない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件処分は違法であって取消しを免れない。
第4 結論
 以上の次第であるから、本件請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 廣澤諭 裁判官 日暮直子)