主文

 1 裁決行政庁が原告らに対し平成20年12月4日付けでした出入国管理及び難民認定法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の各裁決を取り消す。
 2 処分行政庁が原告らに対し平成21年1月6日付けでした各退去強制令書発付処分を取り消す。
 3 原告らのその余の請求に係る訴えを却下する。
 4 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
 
事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
  (1)裁決行政庁が原告らに対し平成20年12月4日付けでした出入国管理及び難民認定法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の各裁決を取り消す。
  (2)処分行政庁が原告らに対し平成21年1月6日付けでした各退去強制令書発付処分を取り消す。
  (3)裁決行政庁は,原告らに対し在留を特別に許可せよ。
 2 被告の答弁
  (1)本案前の答弁
 請求の趣旨(3)に係る訴えを,いずれも却下する。
  (2)本案の答弁
 請求の趣旨(1),(2)の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
 1 本件は,ペルー共和国(以下「ペルー」という。)の国籍を有する原告らが,法務大臣から権限の委任を受けた裁決行政庁から平成20年12月4日付けで出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の各裁決(以下「本件各裁決」という。)を受け,処分行政庁から平成21年1月6日付けで各退去強制令書発付処分(以下「本件各処分」という。)を受けたのに対し,本件各裁決及び本件各処分の取消しを求めるとともに,裁決行政庁に対し,入管法50条1項に基づく在留を特別に許可すること(以下「在留特別許可」という。)の義務付けを求める事案である。
 2 前提事実(以下の事実は,当事者間に争いのない事実及び後掲の証拠から容易に認定できる事実である)
  (1)原告X1(以下「原告父」という。)は,1961年○月○日ペルーで生まれたペルー国籍を有する外国人であり,原告X2(以下「原告母」といい,原告父と併せて「原告父母」という。)は,1967年○月○日ペルーで生まれたペルー国籍を有する外国人であり,両者は,1986年ころからペルー国内で同居を開始した。そして,両者の間には,1987年○月○日に長男D(以下「長男」という。)が,1988年○月○日に二男E(以下「二男」という。)が,1990年○月○日にF(以下「三男」という。)がそれぞれ生まれた。なお,この3名の子ども(以下「3兄弟」という。)は,いずれもペルー国籍の外国人である。また,原告父母は,1990年12月29日に婚姻届を提出した(甲13)。
  (2)原告父は,平成6年4月16日,有効な旅券を所持せず,他人(G〔1963年○月○日生まれ〕。以下,この名前を「偽名(父)」という。)名義の旅券を所持して新東京国際空港に到着し,東京入国管理局(以下「東京入管」という。)成田支局入国審査官から,在留資格「短期滞在」,在留期間「90日」とする上陸許可を受けて,不法に本邦に入国した。
 原告父は,平成6年9月2日,大阪入国管理局(以下「大阪入管」という。)京都出張所において,偽名(父)名義で,在留資格「日本人の配偶者等」,在留期間「3年」とする在留資格変更許可を受け,平成9年6月3日,名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)において,偽名(父)名義で在留期間更新許可申請をしたが,平成10年1月19日,この申請を不許可とする旨の通知を受けた。
 なお,この間,原告父は,偽名(父)名義で外国人登録法に基づく登録をし,偽名(父)名義の登録を継続していたが,上記不許可処分後の平成18年10月6日,三重県鈴鹿市長に対し,本名等に訂正する旨の申立てをし,同月31日,鈴鹿市長は,原告父の外国人登録の氏名及び生年月日を訂正した(以上につき,乙2,6,7,10,13,14の1,14の2,17)。
  (3)原告母は,平成6年8月8日,有効な旅券を所持せず,他人(H〔1967年○月○日生まれ〕。以下,この名前を「偽名(母)」という。)名義の旅券を所持して新東京国際空港に到着し,東京入管成田支局入国審査官から,在留資格「短期滞在」,在留期間「90日」とする上陸許可を受けて,不法に本邦に入国した。
 原告母は,平成7年10月2日,大阪入管京都出張所において,偽名(母)名義で,在留資格「定住者」,在留期間「1年」とする在留資格変更許可を受け,同年11月29日,名古屋入管において,偽名(母)名義で,在留期間「1年」,在留期限「平成8年11月6日」とする在留期間更新許可を受けた。
 原告母は,平成8年1月28日,偽名(母)名義で,大阪入管関西空港支局から再入国許可を得て出国し,同年4月16日,同支局から,偽名(母)名義で,再入国許可による上陸許可を受けた。この再入国の際,3兄弟は,原告母と同行して来日し,いずれも他人名義の旅券を行使して本邦に不法に入国し,同年9月30日,名古屋入管において,他人名義で在留資格変更許可を受けた。
 原告母は,平成8年11月5日,名古屋入管において,偽名(母)名義で,在留期間「1年」とする在留期間更新許可を受けた。さらに,原告母は,平成9年10月8日,名古屋入管において,偽名(母)名義で,在留期間更新許可申請をしたが,平成10年1月19日,この申請を不許可とする旨の通知を受けた。
 なお,同様に他人名義で在留期間更新許可申請をしていた3兄弟も,同日この申請を不許可とする旨の通知を受けた(以下,原告父母及び3兄弟に対する同日付けの在留期間更新不許可処分を,「本件各不許可処分」という。)。
 また,この間,原告母は,偽名(母)名義で外国人登録法に基づく登録をし,偽名(母)名義の登録を継続していたが,本件各不許可処分後の平成18年10月6日,鈴鹿市長に対し,本名に訂正する旨の申立てをし,鈴鹿市長は,同年11月17日,外国人登録法10条の2第1項に基づく氏名変更とはせずに,偽名(母)の外国人登録原票を閉鎖し,同法3条1項に基づく新規登録として,原告母の本名による外国人登録原票を作成した(以上につき,乙3,6,8,11,12,15,16の1,16の2,18)。
  (4)本件各不許可処分を受けた平成10年1月ころ,原告父母及び3兄弟は,鈴鹿市〈以下省略〉のaハイツ(以下「aハイツ」という。)に居住しており,同所を居住地とする外国人登録をしていた。そのころ,原告父母は,b製作所に勤務しており,3兄弟はc小学校に在学(5年,3年,1年)していた。
  (5)原告X3(以下「原告長女」という。)は,原告父母間の長女として,平成12年○月○日,鈴鹿市内で出生し,出生後30日以内に在留資格取得申請をせず,在留資格のないまま日本で生活しており,ペルーで生活したことはない。なお,原告長女は,同月12日,氏名を「I」とする外国人登録をし,平成20年3月31日,鈴鹿市長に対し,出生届に代わる追完届を提出し,氏名を本名とする申請をし,氏名変更をした(以上につき,乙4から6,65から67)。
  (6)原告父母及び3兄弟は,本件各不許可処分後名古屋入管に出頭しなかったため,名古屋入管調査部門は,平成13年6月12日付けで原告父母及び3兄弟に対する入管法違反事件を中止とする中間処分(以下「本件中間処分」という。)をした(弁論の全趣旨)。
  (7)原告ら及び3兄弟(以下,総称して「原告ら家族」という。)は,平成18年10月20日,本邦への在留を希望して名古屋入管に出頭申告した(以下,この出頭を「本件出頭」という。)。
 その後,名古屋入管入国警備官は,原告父母に対し違反調査を行い,平成20年3月3日,原告父母を入管法24条1号該当容疑者として,原告長女を同条7号該当容疑者として,名古屋入管入国審査官に引き渡した(乙29から31)。
 その後,名古屋入管入国審査官は,原告らに対し違反審査を行い,平成20年8月13日,原告母が入管法24条1号に該当する旨認定し,原告長女が同条7号に該当し,かつ,出国命令の対象者に該当しない旨認定し,原告母にその旨を通知したところ,原告母及び原告長女は,同日,名古屋入管特別審理官による口頭審理を請求した。また,名古屋入管入国審査官は,同月14日,原告父が同条1号に該当する旨認定し,原告父にその旨通知したところ,原告父は,同日,名古屋入管特別審理官による口頭審理を請求した(乙32から34,38から42)。
  (8)名古屋入管特別審理官は,平成20年9月17日,原告父に対する口頭審理を実施し,上記入国審査官の認定に誤りがない旨判定し,その旨原告父に通知したところ,原告父は,同日,法務大臣に対し,異議の申出をした。また,名古屋入管特別審理官は,同年10月8日,原告母及び原告長女に対する口頭審理を実施し,上記入国審査官の各認定に誤りがない旨判定し,その旨原告母に通知したところ,原告母及び原告長女は,同日,法務大臣に対し,それぞれ異議の申出をした(乙43から50)。
  (9)法務大臣から権限の委任を受けている裁決行政庁は,平成20年12月4日,原告らの上記異議の申出には理由がない旨の本件各裁決をし,同日,処分行政庁に対し,本件各裁決を通知した。これを受けた処分行政庁は,平成21年1月6日,原告らに対し,本件各裁決を通知するとともに,ペルーを送還先とする退去強制令書を発付する旨の本件各処分をした(乙51から62)。
 裁決行政庁は,平成21年1月6日,3兄弟に対して,在留資格を「定住者」,在留期間を「1年」とする在留特別許可を付与した。
  (10)本件出頭当時,原告ら家族は,鈴鹿市〈以下省略〉(以下「現住所」という。)に居住し,原告父母はb製作所に引き続き勤務しており,長男は,d高等学校(定時制)に通いながらb製作所に勤務しており,二男は,e高等学校に在学しており,三男は,f高等学校に在学しており,原告長女は,g幼稚園の年長に在園していた。
 また,本件各裁決当時,原告ら家族は,現住所に居住し,原告父母はb製作所に引き続き勤務しており,長男は,d高等学校(定時制)に通いながらb製作所に勤務しており,二男は,h専門学校に在学しており,三男は,f高等学校に在学しており,長女は,i小学校の2年に在学していた(以上につき,甲13,原告父,弁論の全趣旨)。
 3 争点及び当事者の主張
 本件の本案前の争点は,在留特別許可の義務付けを求める訴えが,行政事件訴訟法3条6項1号のいわゆる非申請型の訴えであるか,又は同項2号の申請型の訴えであるか,また,義務付けの訴えの訴訟要件を満たしているかであり,本案の争点は,本件各裁決及び本件各処分の適法性及び義務付けの訴えの当否である。これらに関する当事者の主張は,次のとおりである。
  (1)本案前の争点について
 (原告らの主張)
 法務大臣が入管法50条1項の判断権限を発動して,その結果,在留特別許可を付与されるかどうかは,入管法49条1項の規定による異議の申出をした者にとって本邦への在留が認められるか否かの重大な利益に関わる事柄であり,法務大臣は,権限を誠実に行使しなければならない。したがって,法務大臣は,入管法49条1項の規定による異議の申出を受理し,その申出に理由がないと判断するときは,当該外国人が入管法50条1項各号に該当するか否かを審査すべき義務があり,在留特別許可の許否についての判断の結果を当該外国人に示す義務があると解するのが相当である。
 したがって,入管法49条1項の規定による異議の申出権は入管法50条1項の在留特別許可を求める申請権としての性質を併せ持ち,かつ,当該申請に関しては法務大臣に在留特別許可を付与するか否かについて応答すべき義務を課したものと解するのが相当である。そうすると,在留特別許可の義務付けを求める訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号のいわゆる申請型の義務付けの訴えに該当する。
 (被告の主張)
   ア 在留特別許可は,入管法上,退去強制事由が認められ退去させられるべき外国人について,なお,特別に在留を許可すべき事情があると認めるときに,法務大臣が恩恵的措置として特別に付与するものである。したがって,入管法上,退去強制事由に該当する外国人に対し,在留特別許可を受けて本邦に在留することができる実体上の権利を保障しているとは考えられず,退去強制事由のある外国人に在留特別許可の付与を求める申請権があることを認めた明文の規定もないから,退去強制事由に係る特別審理官の判定に対する異議の申出権を認めた入管法49条1項が,在留特別許可の付与を求める申請権も併せて認めていると解することはできない。よって,在留特別許可を求める義務付けの訴えは,非申請型の処分の義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項1号)である。
   イ 非申請型の処分の義務付けの訴えについては,行政事件訴訟法37条の2第1項により,「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」に限り提起することができる。本件において,原告らは,入管法49条1項に基づく異議の申出に理由がない旨の本件各裁決の取消し等も求めているところ,これに勝訴すれば,裁決行政庁は,判決主文が導き出されるに必要な事実認定及び法律判断に拘束されることになるから,勝訴すれば在留特別許可取得という目的を達することができる。よって,在留特別許可の義務付けを求める訴えは,不適法である。
  (2)本案の争点について
 (原告らの主張)
   ア 法務省入国管理局は,平成21年7月在留特別許可に係るガイドラインを改訂した(改訂後のガイドラインを,「新ガイドライン」という。)。そして,従前不許可となった事案も,新ガイドラインに沿って再度検討されることになる。そこで,本件も,新ガイドラインに沿って検討する。
 (ア)積極要素について
  ① 新ガイドラインは「当該外国人が,本邦の初等・中等教育機関(母国語による教育を行っている教育機関を除く。)に在学し相当期間本邦に在住している実子と同居し,当該実子を監護及び養育していること」を積極要素としているが,原告長女は,本件各裁決時点で小学校2年生であり,現在4年生であって,この基準に該当する。
  ② 新ガイドラインは「当該外国人が,不法滞在者であることを申告するため,自ら地方入国管理官署に出頭したこと」を積極要素としているが,原告らは,名古屋入管が中止処分としていたところ,自ら出頭したので,この基準に該当する。
  ③ 新ガイドラインは「当該外国人が,本邦での滞在期間が長期間に及び,本邦への定着性が認められること」を積極要素としているが,本件各処分時において,原告父は14年10か月,原告母は14年5か月,原告長女は8年9か月日本に滞在しており,原告父母は,10年以上1か所で稼働し,地域にもなじんでおり,3兄弟は,日本での教育を受けて生育し,原告長女は,日本で生まれ現在小学校4年生になっており,その定着性は顕著である。
 (イ)消極要素について
  ① 新ガイドラインは「(前略)偽造旅券等又は在留資格を偽装して不正に入国したこと」を消極要素としている。しかし,原告父母が偽造旅券を用いて入国した1994年頃のペルー国内の状況は,センデロ・ルミノソやトゥパク・アマル革命運動等のテロ組織の活動が先鋭化し,混乱しており,原告一家が住むアヤクチョ州パウカ・デル・サラサラ郡パウサ市でも同様であり,1991年には市役所庁舎が爆弾テロに遭うなど治安が極端に悪化した。原告母の父は,当時サラサラ郡の知事をしていたので,役職を辞さないと家族を殺すと脅されていた。原告父は,真正な旅券で来日を試みたが,上陸拒否され入国できなかった。そのため,原告父は,どうしても家族を守るためにも国外に行きたいと考え,偽造旅券を使用して入国した。このように,原告らは難民認定を受ける可能性を持っていたが,緊急性と難民認定手続に関する知識が不十分であったため,他人名義で入国し,その後不法残留となったものである。したがって,これらの点を考慮すれば,原告らは,難民に類似する状況にあったといえるのであり,偽造旅券を使用して入国した点は過大視すべきでない。
 また,原告父母の勤務先などでの偽名の使用は,偽名であったことが平成10年の時点で入管当局に判明していることに鑑みれば,通称名としての使用が続いていたというべきである。
  ② 原告父母は,長期間不法就労していたが,未成年者を除く在留特別許可事案では就労していないことはないに等しいのであり,新ガイドラインに不法就労が記載されていないことに照らせば,不法就労は法違反ではあるが,在留資格を付与することが前提になっているといえるものである。
 (ウ)以上の積極要素と消極要素を総合的に勘案すれば,本件は在留特別許可が認められる事案である。
   イ 正規在留を取り扱う名古屋入管就労・永住審査部門は,本件各不許可処分後9か月以上経過した後の平成10年10月21日に,本件を非正規在留を取り扱う調査部門に回付した。そして,調査部門は,何らの手続をすることなく,回付されてから2年7か月余り経過した平成13年6月12日になって本件中間処分をした。
 原告ら家族は,本件各不許可処分に係る在留期間更新許可申請書に記載したaハイツに平成16年3月8日まで居住し(なお,部屋は変わっている。),それ以降は,現住所に居住しており,いずれの住所も外国人登録をしていた。また,原告父は本件各不許可処分後から,原告母は平成9年7月4日から,いずれも本件各裁決時までb製作所に勤務していた。したがって,名古屋入管は,本件各不許可処分以降も,原告ら家族の存在だけでなく,原告らの生活場所,稼働先,連絡先を認識していた。したがって,名古屋入管は,本件各不許可処分から裁決行政庁が本件各裁決をした平成20年12月4日までの約11年,原告らが日本で稼働し,生活することを放置又は黙認していたといわざるを得ない。
 仮に,名古屋入管が,原告父母に対し,速やかに退去強制を求めておれば,原告長女は日本で出生しておらず,現在のように日本でのみ幼少期を過ごすこともなかった。
 確かに,原告らは,名古屋入管に出頭することが遅れたが,幼い子どもを抱えて生活をして行くのに必死であったことに加え,母国の状況も帰国できるようなものでなかったという酌むべき事情がある。他方,名古屋入管は,長期間にわたり,原告父母の存在を知りながら,在留を放置又は黙認した背景には,上記酌むべき事情に対する配慮があったものと推測できる(もし,名古屋入管の怠慢で放置していたのであれば,強い非難に値する。)。名古屋入管が放置又は黙認して形成された生活状況があるのに,原告らの落ち度のみを過去に遡って現時点で避難するのは,バランスに欠ける。したがって,長期間の放置又は黙認を十分に斟酌していない本件各裁決は,妥当性を欠くものである。
 (被告の主張)
   ア 在留特別許可の判断に関する裁量権
 (ア)国家は,国際慣習法上,外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別な条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,受け入れる場合にいかなる条件を付するかを自由に決することができ,憲法上も,外国人は,我が国に入国する自由を保障されているものではないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き本邦に在留することを要求する権利を保障されているものでもない。
 (イ)我が国においては,外国人の出入国が,日本社会の治安と善良な風俗の維持,保健衛生の確保,労働市場の安定等,政治経済はもちろん,国民生活一般へ重大な影響を与えるものであることから,その無秩序,無制限な出入国及び滞在は認められておらず,これらの分野における国益の保持を目的として,入管法において在留資格制度を中核とする出入国管理制度が設けられている。外国人が,この制度の下において,入管法24条に列挙されている退去強制事由に該当するということは,類型的に見て,我が国に滞在させることが好ましくない者であるということである。在留特別許可の許否の判断に当たっては,そのことを前提とした上で,当該外国人の滞在中の一切の行状等の個別事情のみならず,国内の治安や善良な風俗の維持,保健衛生の確保,労働市場の安定等の政治,経済,社会等の諸事情,当該外国人の本国との外交関係,我が国の外交政策,国際情勢といった諸般の事情をその時々に応じ,各事情に関する将来の変化の可能性なども含めて総合的に考慮し,我が国の国益を害さず,むしろ積極的に利すると認めるか否かを判断して行われなければならない。
 (ウ)以上のような判断は,国内はもとより国際的にも広範な情報を収集し,その分析の上に立って,先例にとらわれず,時宜に応じて的確かつ慎重に行う必要があり,時には高度に政治的な判断を要求される場合もあり得ることなどにかんがみれば,法務大臣又はその委任を受けた地方入国管理局長(以下,併せて「法務大臣等」という。)の極めて広範な裁量に委ねるのが適当である。在留特別許可を付与しないという法務大臣等の判断が裁量権の逸脱,濫用に当たるとして違法とされる場合があり得るとしても,それは,法律上当然に退去強制されるべき外国人について,なお我が国に在留することを認めなければならない積極的な理由があったにもかかわらず,これが看過されたなど在留特別許可の制度を設けた入管法の趣旨に明らかに反するような極めて特別な事情が認められる場合に限られるというべきである。
   イ ガイドラインの位置付け
 在留特別許可に係るガイドラインは,改訂の前後を通じて,我が国に在留させることが好ましくない退去強制対象者たる外国人に対して,なお我が国に在留させなければならないほどの特別な事情がある場合において,諸般の事情を総合的に考慮して,恩恵的に与えられ得る性質のものである在留特別許可の許否を判断するに当たって考慮すべき当該外国人の個別事情を類型的に分類し,検討する例を一般的,抽象的に例示したものであり,在留特別許可に係る一義的,固定的な基準(裁量基準)ではないから,ガイドラインに例示された事情だけで在留特別許可の許否が判断されるものではない。
 そして,新ガイドラインは,改定前のガイドラインの「在留特別許可の許否に当たっては,個々の事案ごとに,在留を希望する理由,家族状況,生活状況,素行,内外の諸情勢,人道的な配慮の必要性,更には我が国における不法滞在者に与える影響等,諸般の事情を総合的に勘案して判断することとしている。」とする基本的な考え方に変化はなく,在留特別許可の許否の判断の透明性を高めることを企図して,当該外国人の個別事情に係る「積極要素」と「消極要素」をよりきめ細かく例示するとともに,そのうち,特に考慮すべき要素を明らかにしたものである。
 したがって,一見するとガイドラインに示された「在留特別許可方向」で検討する例に該当すると評価できるものであっても,当然に在留特別許可を付与すべきであるということにはならない。また,在留特別許可を付与しないという法務大臣等の判断が裁量権の逸脱濫用に当たる場合は,在留特別許可の制度を設けた法の趣旨に明らかに反するような極めて特別な事情が認められる場合に限られるというべきであるから,在留特別許可方向で検討すべき例に該当すると評価できるからといって,それだけでは,在留特別許可をしなかったことが法務大臣等に与えられた裁量権の逸脱・濫用になるということはできない。
   ウ 原告らにおける具体的な事情について
 (ア)原告父母は,偽造旅券を使用して不法入国をし,長年にわたり不法就労を続けてきた。偽造旅券を用いた不法入国は,入国審査官を欺罔するにとどまらず,当該偽造旅券等を作成する行為を前提としており,偽装旅券は他の犯罪行為を誘発するおそれもあり,悪質性は高い。偽造旅券を行使した不法入国を看過容認することは,出入国管理行政に大きな悪影響を与えるものであり,許されない。
 しかも,原告父は,その証言によれば,真正な旅券で入国しようとしたが,上陸拒否となったにもかかわらず,敢えて偽造旅券を行使して不法入国をした。このような偽造旅券を使用した不法入国に対しては,厳格に対処する必要がある。
 (イ)原告父母は,偽造旅券を使用して不法入国したにとどまらず,日系ペルー人又はその家族になりすまし,在留資格変更許可を受けた。日系人として身分関係や身分事項を偽った者が,同一家系に複数紛れ込んだ場合,真実の親族関係の把握が極めて困難となり,その結果,入国及び在留審査業務に重大な支障を来し,本来入国が認められない者が組織的に不法入国したり,逆に本来入国が認められるべき真正な日本人の親族の入国が困難となるような事態の発生をもたらすことになる。
 原告らの行為は,日本の出入国管理行政を著しく混乱させるのみならず,真実の日系人の利益をも阻害するものであって,悪質性は高い。
 この点,原告父母は,ペルーではテロリストが横行し,生命身体の安全が脅かされていたために,本邦に入国したのであり,難民と同様の事情があると主張する。しかし,原告父は,平成6年に本人名義の旅券を使用して本邦に入国しようとし,上陸を拒絶されたが,その際,本国に帰れば生命身体に差し迫った危険が生じることを入管職員に訴えていない。また,原告母は,危険があると主張する本国に3人の子どもを残して本邦に入国している。したがって,その主張は信用できない。
 (ウ)確かに,原告長女は,日本で生まれ,本件各裁決当時小学校2年生であったが,環境の変化に対応する順応性や可塑性に富む年齢にあったというべきであり,仮にペルーに帰国したとしても,帰国当初多少の困難はあるとしても,現地での生活を経験することにより,時の経過とともに,言語や生活習慣を身につけ,生活環境になじむことは十分可能と考えられるから,原告長女の生育歴が,原告父母に対し在留特別許可を付与しなければならない特別な事情に当たるとは認められない。
 また,3兄弟は,本件各裁決当時,長男が21歳,二男が20歳,三男が18歳であり,一般にこの年齢に達すれば親元から離れて暮らすことは珍しいことではないから,3兄弟が,必ずしも原告らと同居し,原告父母の看護,養育を受けなければならないものではないので,原告父母と三兄弟が別々に生活することになったとしても,家族離散とまでは評価できない。
 (エ)したがって,原告らは,改訂後のガイドラインに示された「在留特別許可方向」で検討する例にも該当しない。
   エ 原告らは,被告が原告らの不法滞在の事実を認識しつつ,何らの対応をとらなかった行政不作為の結果,原告らが本邦において長期在留に及び,一体として家族生活が形成されたというものであるから,原告らの本邦における長期在留は特に保護に値するものと主張する。
 しかし,原告父母は,本件各不許可処分後,ペルーに帰国しなければならないことを十分に認識しながら,自らの判断で不法に在留を続けたものである。しかも,原告父母は,その後自ら名古屋入管との接触を避けるべく連絡を絶ったため,名古屋入管は,やむなく事件を中止とする本件中間処分をしたのであり,原告父母及び3兄弟の違反状態を知りながら原告父母及び3兄弟を摘発しなかったものではなく,長期間原告父母及び3兄弟をいたずらに放置していたわけでもない。したがって,原告らの主張は,長期間にわたる不法滞在を正当化するために責任転嫁するものにすぎず,失当である。
第3 当裁判所の判断
 1 本案前の争点について
  (1)入管法50条1項所定の在留特別許可は,同項の文言から明らかなように,入管法24条により退去強制されるべき者に対する法務大臣等の例外的な恩恵的措置として付与されるものであり,入管法上,外国人に対し,在留特別許可の付与を求める申請権を認めた明文の規定は存せず,また,入管法の規定を通覧しても,上記申請権があることを前提として定められた規定は見当たらない。この点につき,原告らは,入管法49条1項の異議の申出権は,在留特別許可を求める申請権としての性質を併せ有するものとして規定されている旨主張するが,同項の異議の申出は,当該外国人が退去強制対象者に該当するとの入国審査官の認定に誤りがないとする特別審理官の判定に異議がある場合に行われる不服申立ての方法として規定されているものであって,これが在留特別許可を求める申請権としての性質を併せ有するものと解することはできない。
 したがって,在留特別許可の義務付けを求める訴えは,行政事件訴訟法3条6項1号所定のいわゆる非申請型の義務付けの訴えに当たるものというべきである。
  (2)このような非申請型の義務付けの訴えについては,行政事件訴訟法37条の2第1項により,「その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り,提起することができる」ものとされている。
 そこで,本件義務付けの訴えにつきこの点を検討すると,原告らは,裁決行政庁が原告らに対し在留特別許可を付与しなかったことには裁量権の逸脱又は濫用があるとして,本件各裁決の取消し等を求めるほかに,原告らに対する在留特別許可の付与の義務付けを求める本件義務付けの訴えを提起している。しかしながら,本件各裁決の取消訴訟において,原告らに対し在留特別許可を付与しなかったことに裁量権の逸脱又は濫用があると判断されて,原告らがこれに勝訴すれば,行政事件訴訟法33条により,法務大臣等は,取消判決の主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に拘束されることになるのであるから(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照),本件において,原告らは,本件義務付けの訴えを提起しなくとも,本件各裁決の取消訴訟の勝訴判決の後に改めてされる法務大臣等の裁決により,本邦での在留資格を得るという目的を達することができるはずである(なお,入管法49条1項の規定による異議の申出には理由がない旨の裁決を受けた者が,専ら裁決後に生じた事情を理由にして在留特別許可の付与の義務付けを求める事案においては,裁決取消訴訟の違法性の判断基準時が裁決時とされることから,当該裁決の取消訴訟によってはその目的を達することができず,義務付けの訴えによらざるを得ないが,本件はこのような事案ではない。)。
  (3)したがって,本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法37条の2第1項が定める「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」という義務付けの訴えの訴訟要件を欠くものとして不適法な訴えというべきである。
 2 本案の争点について
  (1)原告らの退去強制事由の該当性
 入管法50条1項によれば,法務大臣等は,入管法49条1項の規定による異議の申出に理由があるかどうかを裁決するに当たって,当該外国人が入管法24条各号の退去強制事由に該当して異議の申出には理由がないと認める場合においても,入管法50条1項各号のいずれかに該当するときには,その者の在留を特別に許可することができるものとされている。
 前記前提事実のとおり,原告父母は入管法24条1号の,原告長女は同条7号の退去強制事由に該当することは明らかであるから,本件においては,原告らに入管法50条1項4号にいう特別に在留を許可すべき事情があると認められるかどうかが問題となる。
  (2)法務大臣等の裁決に係る裁量権の範囲とその行使に関する違法性の判断の在り方
   ア 国家は,国際慣習法上,国家主権の属性として,外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるか否か,また,受け入れる場合にいかなる条件を付するかについて,これを自由に決定し得るものと解され,我が国の憲法も,外国人に対し,我が国に入国する自由又は在留する権利を保障する規定を設けていない。このように,国家は,外国人の入国及び在留の許否に関する裁量権を有しているところ,入管法上,法務大臣等が在留特別許可の許否の判断をするに当たって考慮すべき事項は何ら定められていない。しかして,上記判断の対象となる外国人は,退去強制事由に該当し,本来我が国からの退去を強制されるべき地位にあることや,外国人の出入国管理が,国内の治安と善良な風俗の維持,保健及び衛生の確保,労働市場の安定などの我が国の国益と密接にかかわっており,これらについて総合的に分析,検討した上で,当該外国人の在留の許否を決する必要があることなどからすると,在留特別許可を付与するか否かの判断は,法務大臣等の広範な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
 したがって,上記の裁量権の行使の結果としてされた在留特別許可を付与しないとの法務大臣等の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法と評価されるのは,判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により,その判断が重要な事実の基礎を欠く場合,又は,事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により,その判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限られるというべきである。
   イ 法務省入国管理局が定めたガイドラインについて
 在留特別許可を付与するか否かにつき,法務省入国管理局は,「在留特別許可に係るガイドライン」(乙68は,平成18年10月に制定されたもの。なお,このガイドラインは,平成21年7月に改訂された。以下での引用は,改訂後の新ガイドラインによる。)を公表している。これによれば,在留特別許可の許否の判断は,個々の事案ごとに,在留を希望する理由,家族状況,素行,内外の諸情勢,人道的な配慮の必要性,我が国における不法滞在者に与える影響等,諸般の事情を総合的に勘案して行うこととされており,ガイドラインは,その際の考慮事項を定めたものである。したがって,ガイドラインは,その性質上,法務大臣等の上記裁量権を一義的に拘束するものではないが,上記ガイドラインの積極要素及び消極要素として記載されている事項は,在留特別許可を付与しなかった法務大臣等の判断の司法審査においても検討の要点となるものである。
  (3)本件の事実関係等
   ア 原告父母の本邦への入国から本件各不許可処分までの事情について
 (ア)原告父母及び3兄弟は,前提事実(2),(3)記載のとおりの経過で本邦に入国したが,前提事実及び証拠(甲3,4,13,14,乙24,25,38,39,43,44,77,78〔枝番を含む。〕,原告父,原告母〔いずれも,後記不採用部分を除く。〕)によれば,来日した理由は,次のとおりであったと認められる。
  a 原告母の姉及びその夫は,原告父母の来日に先立ち,日系人と称して本邦に入国していた。原告母は,その姉から,電話で「日本に来れば仕事があり,お金が稼げる。」等と言われたので,原告父母は日本に行くことにした。そこで,まず,原告父が,真正な旅券を使用して,平成6年3月ころ,来日したが,名古屋入管入国審査官に上陸を拒否された(その具体的理由は不明である。)。その際,原告父は,特に苦情等を申し立てずに帰国した。
  b その後,原告父母は,原告母の姉に尋ねたところ,日系人と称して入国すれば入国できると教えられたので,偽名(父)名義の偽造旅券を取得した。そして,原告父は,同年4月,この偽造旅券を使い,本邦に入国した。
  c 原告母は,その後,長期間滞在するために必要との原告母の姉の夫からの助言に従い,原告夫の偽の出生証明書を取得し,これを原告夫に送付し,原告夫は,これを利用して,在留資格の変更許可を受けた。また,原告母も,偽造の婚姻証明書を入手し,偽名(母)名義の偽造旅券を取得し,これを利用して,平成6年8月,本邦に入国した。なお,原告母は,3兄弟を原告父の母親に預けていた。
  d 原告父母は,来日後,すぐにユー・スズカ(派遣業)で働きだし,原告母は,平成8年1月にペルーに一時帰国し,同年4月に3兄弟を連れて再来日した後は,b製作所で働きだした。なお,原告父母は,来日直後から,本国の原告父の母親に対し,毎月2万円から3万円を送金した。
 (イ)以上によれば,原告父母は,本邦で稼働する目的で,他人名義の旅券を使い,本邦に入国したものと認められる。
 これに対し,原告らは,来日当時の本国は治安が不安でテロの危険等があったために来日したと主張し,原告父母もこれに沿う供述をする。確かに,原告父母及び3兄弟が来日したころ,ペルーでは,センデロ・ルミノソ等のテロ集団が国内で活動していたことは,周知の事実である。しかし,原告父は,単身で来日した上,一度目の入国で上陸を拒絶された際,名古屋入管入国審査官に対し,本国に戻ることになるとテロの危険がある等と申し立てておらず,ペルーへの帰国を拒んでいたとは認められないこと,また,原告母は,本国に3人の子供を残して来日したこと,原告父の供述によれば,原告父の兄弟は,アメリカやスペインに出国した者がいたというのであるが,原告父母は,これらの国に行くよりも渡航費用が高い日本に,偽造旅券を使い入国したこと,入国直後から原告父の母親に送金していることに照らせば,原告父母が来日した主要な目的は,稼働することにあったと認めるのが相当であり,原告らの上記主張及び原告父母の上記供述は採用できない。
   イ 本件中間処分に関する事情について
 (ア)前提事実並びに証拠(甲13,14の1,2,乙13ないし18〔枝番を含む。〕,原告父,原告母)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
  a 原告父は平成9年6月3日,原告母及び3兄弟は同年10月8日,いずれもそれまで使用していた偽名により,原告父母の偽造の出生証明書,婚姻登録証明書を添付して在留期間更新許可申請をした。なお,原告父母が提出した在留期間更新許可申請書には,氏名,生年月日は偽名に基づき記載されていたが,日本における居住地としてaハイツの部屋番号が記載され,勤務先としては,原告父母が当時勤務していた,ユー・スズカ及びb製作所が記載されていた。しかし,名古屋入管は,出生証明書及び婚姻登録証明書が偽造であることを看破し,原告父母及び3兄弟に対し,平成10年1月19日,本件各不許可処分をし,その旨口頭で告知した。その際,名古屋入管は,原告父母に対し,出国の意思を有し,出国準備まで短期間の在留を希望する場合には同月26日までに,名古屋入管に出頭し,所定の手続を執るよう求めた。原告父母は,名古屋入管に対し,ペルーへ帰国するための渡航費用を工面するまで在留期間の更新をしてほしいと願い出たが,名古屋入管はこれを許さなかった。なお,この時,名古屋入管は,原告父母及び3兄弟が,偽名を使い他人名義の旅券を使用して本邦に入国したことは把握していた。
  b 原告父母及び3兄弟は,平成18年10月20日の本件出頭まで,自ら名古屋入管に出頭したり,また連絡したりしたことはなかった。他方,名古屋入管は,原告父母及び3兄弟が自主的に出国せず,また入管に連絡すら取っていなかったにもかかわらず,原告父母及び3兄弟に対し退去強制手続等を執ることはしなかった。また,名古屋入管調査部門は,平成13年6月12日付けで原告父母及び3兄弟に対する入管法違反事件を中止とする本件中間処分をした。なお,原告ら家族は,平成15年8月3日,現住所に転居し,平成16年3月8日,同所を居住地とする外国人登録法に基づく登録(居住地変更登録)を行った。
 (イ)以上によれば,裁決行政庁は,本件各不許可処分当時,原告父母の住所(これは外国人登録されたものであった。)及び勤務先を把握していたと認められるから,本件中間処分までの間,名古屋入管入国警備官が原告らにつき退去強制事由に該当すると思料する外国人として違反調査を行うことについて,何ら障害があったとは認められない。そして,平成18年10月20日の本件出頭まで,本件各不許可処分から約8年9か月,本件中間処分から約5年4か月経過しており,この間,名古屋入管は,原告父母及び3兄弟が本邦に在留することを黙認していたものであると評価されてもやむを得ない。
 この点,被告は,原告父母は自ら名古屋入管との接触を避けるべく連絡を絶ったため,名古屋入管は,やむなく本件中間処分をすることになったと主張する。確かに,原告父母は,本件各不許可処分後,自ら名古屋入管に連絡をしていない。しかし,入国警備官には,このようなときのために入管法28条以下に規定する各種権限が認められており,しかも,本件の場合,原告父母及び3兄弟は,本件中間処分時まで在留資格変更申請書に記載したaハイツに居住しており,名古屋入管入国警備官がその権限を行使するに際して何ら障害があったとは認められないのであるから,被告の上記主張は,採用できない。
   ウ 本件各不許可処分後から本件各裁決までの事情について
 前提事実並びに証拠(甲3,4,13,14,17,乙65〔枝番を含む。〕,証人二男,原告父,原告母)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 (ア)原告父は,平成10年8月から,b製作所に勤務しだし,本件各裁決時まで勤務していた。原告母は,本件各不許可処分以前からb製作所に勤務しており,本件各裁決時まで勤務していた。また,地域のスポーツクラブにも参加し,地元の住民との交流をするようになった。
 (イ)3兄弟は,本件各不許可処分当時,いずれも,c小学校に在学していた。
 長男は,平成11年4月にj中学校に入学し,平成14年3月に同中学校を卒業し,卒業後b製作所に勤務し,現在に至っている。なお,長男は,平成18年4月に,d高等学校定時制に入学し,在留特別許可を付与された平成21年1月6日当時,同高等学校に在学中であった。
 二男は,平成13年4月にj中学校に入学し,平成16年3月に同中学校を卒業し,同年4月にe高等学校に入学し,平成19年3月に同高等学校を卒業し,同年4月にh専門学校に進学した。二男は,在留特別許可を付与された平成21年1月6日当時,同専門学校に在学中であった。
 三男は,平成15年4月にj中学校に入学し,平成18年3月に同中学校を卒業し,同年4月にf高等学校に入学した。三男は,在留特別許可を付与された平成21年1月6日当時,同高等学校に在学中であった。
 (ウ)原告母は,本件各不許可処分当時,原告長女を懐胎していなかった。原告長女は,平成12年○月○日に鈴鹿市で出生し,本件各裁決当時,i小学校2年に在学中であった。なお,原告長女は,同月12日,氏名を「I」とする外国人登録をし,平成20年3月31日,鈴鹿市長に対し,出生届に代わる追完届を提出し,氏名を本名とする申請をし,氏名変更をした。
 (エ)3兄弟のうち長男と次男は,スペイン語を少々話すことはできるが,三男は全く話すことはできない。原告長女は,スペイン語を聞いて理解することはある程度できるが,話すことはできない。原告長女は,家庭内でも日本語を使用している。
  (4)本件各裁決の適法性について
   ア 前記(3)ウの事実関係によれば,原告長女は,平成12年○月○日に本邦で出生し,以後,原告父母により本邦で養育され,本件各裁決当時,小学校2年に在学中であった。そして,原告長女は,スペイン語を聞いて理解することはある程度できるが,話すことはできず,家庭内でも日本語を使用していたのである。原告長女は,出生後,本邦内での生活経験しかなく,その言語能力にかんがみると,国籍国であるペルーで生活することになれば,生活面及び学習面で大きな困難が生じることは明らかである。児童の権利に関する条約3条1項において,児童に関する措置をとるに当たっては児童の最善の利益が主として考慮されるべきであることが規定されており,また,新ガイドラインにおいて,「当該外国人が,本邦の初等・中等教育機関(母国語による教育を行っている教育機関を除く。)に在学し相当期間本邦に在住している実子と同居し,当該実子を監護及び養育していること」が,在留特別許可の許否の判断において特に考慮する積極要素として掲げられていることに照らしても,原告らに対し在留特別許可を付与するか否かを判断するに当たっては,原告長女に係る上記の事情を積極要素として特に考慮することが求められるものというべきである。
 なお,原告長女の兄らである3兄弟については,在留特別許可が与えられ,「定住者」の在留資格を認められたが,原告長女の年齢等を考えると,原告父母が原告長女と別れてペルーに帰国し,3兄弟が本邦で原告長女の養育監護を行うことは,原告長女の福祉にかなうものとは認められないので,原告らに対する在留特別許可の許否については,原告父母と原告長女を一体のものとして判断するのが相当である。
   イ 他方,前記(3)アの事実関係によれば,原告父母は,稼働目的で他人名義の旅券を用いて本邦に不法入国した上,原告父が日系人であると偽って在留資格を不正に取得していたのであって,原告父母のかかる行為は,我が国の出入国管理行政上看過し難いものであり,原告らに対し在留特別許可を付与するか否かを判断するに当たって,消極要素となるものである。
 しかしながら,前記(3)イで認定判断したとおり,名古屋入管は,上記のような原告父母の不正行為が明らかになって,平成10年1月19日に本件各不許可処分をした後,平成18年10月20日に原告ら家族の本件出頭があるまで8年9か月の長期間にわたって,原告父母が本邦に在留することを黙認していたのであり,その在留期間中に原告長女が出生し,本件各裁決時点では小学2年生になっていたことを考えると,原告父母が行った上記の違法行為を消極要素として過度に重視し,その違法行為を理由に直ちに原告らが本邦で在留する道を閉ざすことは相当でないというべきである。
   ウ 以上の事情のほか,原告らに対し在留特別許可を付与しないとすると,原告らと3兄弟(本件各裁決当時,長男は21歳で就労しながら定時制高等学校に在学中であり,二男は20歳で専門学校に在学中であり,三男は18歳で高等学校在学中であった。)は,家族でありながらペルーと本邦で別れて生活しなければならなくなること,原告らには,原告父母の上記イの違法行為と不法就労の点を除いて,犯罪行為や素行に問題があったなど問題行動があったことをうかがわせる証拠はなく,かえって,原告父母は,在留資格がないという不自由な立場にありながら,3兄弟を高等学校に進学させるなどしており,夫婦が協力して懸命に子育てをしてきた様子がうかがわれること,その他本件に現れた一切の事情を総合勘案すると,原告らに対し在留特別許可を付与しないとした裁決行政庁の判断は,その裁量権が広範なものであることを考慮したとしても,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであるといわなければならない。
 そうすると,本件各裁決は,裁決行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして,違法であるというべきである。
  (5)本件各処分の適法性について
 本件各処分は,裁決行政庁から本件各裁決をした旨の通知を受けた処分行政庁が,入管法49条6項に基づいてしたものであるところ,上記のとおり,本件各裁決は違法と認められるから,これを前提としてされた本件各処分も違法と認められる。
 3 結論
 以上によれば,原告らの請求のうち,本件各裁決及び本件各処分の取消しを求める請求は理由があるからこれを認容し,その余の請求に係る訴えは不適法であるからこれを却下すべきである。
 よって,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 増田稔 裁判官 鳥居俊一 裁判官 杉浦一輝)